『中国新聞』社説2009年2月22日付

医師研修見直し 地方への定着促したい


免許を取ったばかりの新人医師は二年間、大学や市中の病院で実地研修を積まなければいけない。その仕組みが見直されることになった。

制度導入からわずか五年。異例の見直しが決まったのは、東京など大都市に研修医が集中し、地方の医師不足が深刻になってきたことが背景にある。見直しは当然といえよう。

現行の制度は、大学病院や市中病院で内科、外科など七つの必修科目と、将来進みたい診療科などの研修を義務付けている。研修医と病院双方の希望が合えば、自由に研修先は選んでいい。

今回、厚生労働省と文部科学省の検討会がまとめた見直し案では、都道府県や病院ごとに研修医の募集定員の上限が設けられる。大学病院には定員枠を多く配分するという。

現状のままでは、大都市の有力病院に人気が偏り、地方の大学病院に残る人材はめっきり減っているからだ。大学は埋め合わせのため、地域の病院に派遣していた医師を引き揚げ、地域の医師不足に拍車を掛ける事態になった。

臨床研修制度がスタートする以前は、新人医師は主に出身大学の付属病院に配置。専門の診療科で研修するケースが大半だった。

研修先として地元の大学病院を選ぶ医師を増やし、かつて大学医局が担っていた地域への医師派遣機能を立て直す―。見直しにはそんな思惑もうかがえる。大都市と地方の偏りをなくすには、選択の自由をある程度、制限することもやむを得まい。

見直しのもう一つのポイントは、研修プログラムの弾力化である。必修科目を内科、救急、地域医療の三つに絞り、二年目は専門にしたい診療科でしっかり研修できるようにする。研修医を即戦力として活用する苦肉の策といえる。

これまでの研修では、専門だけでなく、幅広い科で一定水準の診療ができる医師を育てる狙いがあった。それだけに必修科目の削減に、「質の低下につながる」と懸念する声も聞かれる。プログラムの工夫とともに、卒業前も含めた医学教育全体の見直しも検討すべき時期だろう。

臨床研修の改善は一歩前進だが、それだけで医師不足が解消するわけではない。過酷な長時間労働は、勤務医が辞める大きな原因だ。地域で頑張る医師の待遇改善に本腰を入れなければ、真の解決にはなるまい。