『北海道新聞』社説2009年2月21日付

臨床研修制度 医師不足は解消されぬ


新卒医師の臨床研修制度について、厚生労働省と文部科学省の合同検討会が見直し案をまとめた。

今の制度は、各地で起きている医師不足の一因と言われ、見直しは当然、必要だろう。だが今回の案が、直ちに医師不足の解消につながるとは思えない。

臨床研修はかつて大学の医局を中心に行われていたが、二〇〇四年に始まった現行制度で、新卒医師が自由に研修先を選べるようになった。

東京をはじめとする都会の民間病院を選ぶ研修医が多く、大学医局は人手不足に陥った。このため、医局が各地に派遣していた医師を引き揚げるようになったことが、地方での医師不足につながっている。

見直し案では、都道府県ごとや病院ごとの研修医の定員を定め、大学の定員を優遇するとした。

今、研修先として大学病院を避ける医師が多いのは、経験できる症例数が民間病院に比べて少ないうえ、雑用が多かったり、処遇が民間より低かったりするためだ。

この根本的な原因が解消されなければ、大学病院を志望する研修医は増えないだろう。魅力的な研修プログラムを組む努力も、大学側に必要ではないか。

見直し案のもう一つの柱は、必修診療科の削減だ。

現在二年間で学ぶ七つの必修科を三科に減らし、残りを選択科にする。余裕のできた期間で、志望する専門科の研修に重点を置けるようにする。これにより、研修中でも即戦力となる医師を養成するという。

そもそも現行制度ができたのは、かつての医局での研修が専門領域に偏っていたためだ。幅広い知識を備えた医師を養成するという方向性自体は間違ってはいない。

とりわけ、地域医療では初期診療や、いくつもの疾病に対応できる総合診療を担う医師が欠かせない。見直し案がこうした医師の養成につながるか疑問が残る。

医師不足がいっそう顕著な産婦人科と小児科を必修から外したことにも、首をかしげる。研修で興味を持ち、これらの診療科を志す若い医師がいるはずだ。

医師不足が進んだのは、臨床研修制度だけが理由ではない。

政府は一九八〇年代前半から医師の抑制策を進め、昨年やっと増員へ方針を転換したばかりだ。医学部の定員増に伴い、教員や施設の拡充が欠かせなくなる。

長時間労働など過酷な勤務に嫌気がさし、開業に転じる勤務医も少なくない。待遇改善が必要だ。

医師不足の解消には、こうした複合的な要因を一つひとつ取り除いていかねばならない。