『長崎新聞』2009年2月5日付

学長直轄「長崎大学病院」へ機構改革 診療に重点、医師確保・増益狙い


長崎大(片峰茂学長)は新年度から、医学部・歯学部付属病院を大学本部所管の「長崎大学病院」とする機構改革を実施する方針を固めた。病院の人事、予算面の裁量権を大幅に拡大し、効率的、機動的な運営を図る。国の運営交付金の削減や医師不足などで大学病院の経営環境が悪化する中、「研究」と「診療」の機能を切り離して医師の就労環境を整え、病院の収益増につなげようとの狙い。

長崎大で教員として勤める医師は四百四十八人(昨年十月現在、非常勤の有期雇用四十三人含む)。そのほとんどは医・歯各学部に所属し、病院での診療実績とともに研究業績を挙げるよう求められている。

しかし、近年は医師不足に伴い診療業務の負担が増加。教員の教育・研究にかける時間が減り、教育研究機関としての機能低下が懸念されている。また経営的には、医業収入は伸びたが、運営交付金の削減分や設備投資の債務償還分をカバーしきれない状況という。

四月からは病院を学長直轄の本部所管とし、学長の任命を受けた病院担当理事が病院長を兼務。人事は独立、予算も枠内で自由に使えるようになり、効率的、機動的な運営を可能にする。

教員の医師は全体の四割弱の約百七十人を病院所属とし、診療に重点化。研究の負担を軽くするとともに、給与など待遇面も改善。医師の意欲向上による増収、人材確保につなげる考えだ。

◆解説/「研究」切り離し懸念も

長崎大医学部・歯学部付属病院の大幅な機構改革は、国の交付金削減など悪環境の中で大学の安定した運営を確保するには、大学全体の収益の約半分を占める病院の経営基盤強化が不可欠だからだ。

大学病院の収入は主に医業収入と国の運営交付金だが、交付金は国立大学の独立行政法人化に伴い年々削減されている。長崎大の場合、収支予算の不足分を補う病院運営交付金は二〇〇四年度に約九億円あったが、〇七年度にはゼロ。〇八年度収支は初めて赤字に転落する見通しだ。

一方で長崎大は老朽施設の更新を進めており、昨年の新病棟完成で二百十億円の借金を背負った。債務償還はピークの一五年度に三十億円に上ることから、収入増を図らないと、病院だけでなく大学全体の経営が危うくなる恐れがある。

機構改革は「研究」と「診療」に医師のすみ分けを図り負担を軽減。「一人で年間一億円稼ぐ」といわれる医師の力を百パーセント発揮させる考えだ。就労環境の改善により医師の「大学病院離れ」に歯止めをかける思惑もある。

ただ、一般病院と異なり、大学病院に集う医師は「研究」にも魅力を感じているはず。そこを切り離すことは、大学病院の求心力を弱めることにならないか懸念される。地域への医師派遣機能を担う大学病院の存立は地域医療の浮沈にかかわるだけに、改革の行方が注目される。(生活文化部・小出久)