『読売新聞』岩手版2009年2月3日付

【暮らしナビ】社会人向け大学講座
選抜・履修に優遇学位取得の道も


県内の大学で、シニア世代や社会人を対象とする生涯学習講座が広がりを見せている。大学の講座といっても、学位取得を目標にする本格的なものから、日常生活に役立つ知識や教養を学ぶといった気軽なものまで様々。社会人を受け入れる大学にとっては、少子高齢化時代の生き残り策でもあるようだ。(青木佐知子)

■増える社会人院生

「研究成果を基に、正確な花粉予想を出していきたいと思います。ご静聴ありがとうございました」

岩手大の大学院連合農学研究科で1月29日に開かれた学位認定の審査会。山形大や弘前大とテレビ会議システムで結ばれた会議室で、盛岡市で内科クリニックを開業する医師の須藤守夫さん(71)は、緊張した面持ちで発表を終えた。

須藤さんは20年以上前から、クリニックの屋上に観測装置を置き、花粉の個数を調べている。データは日本気象協会に提供するほか、その年の花粉の飛散量をクリニックのホームページで予報してきた。

四十数年ぶりに大学の門をたたいたのは、「農学の観点からスギの生態を学び、気象条件が花粉量に及ぼす影響を知りたかった」からだ。農学博士号の取得が目標だ。

診療業務を終えた夜間、岩手大の雑賀優教授に花粉量の分析方法などを電子メールで送り、週末に大学の研究室で指導を受けてきた。雑賀教授は「医師という激務の中で研究を続けられ、若い学生の刺激になった」とたたえる。

岩手大は、須藤さんのような実社会で活躍する人たちに広く門戸を開いている。社会人選抜では、一般の学生に課される学力試験はなく、小論文や面接、勤務先の推薦書などで合否が決まる。履修方法や学費も配慮されている。3年分の学費で最長5年間在籍できる制度があるほか、講義も3〜4日間で集中して受けることも出来る。

こうした優遇制度もあり、同大学院の社会人の数は年々増え、今年度は大学院生150人のうち、3分の1を社会人が占めるまでになった。

■学生と一緒に聴講

学位取得を目的にはしなくとも、毎週の講義を若い学生に交じって聴講する方法もある。

各大学のホームページなどで授業概要を調べ、興味のある講義を選択する。最初の講義を聞いてから申し込むことも可能で、岩手大の場合、受講料は1講座で4000〜6000円。

県立大は、盛岡駅西口のアイーナや滝沢キャンパスで、ストレス解消法やメタボリック症候群対策といった健康講座を開設しており、60〜70歳代の人気を集めている。

社会福祉学部が民生委員らを対象に07年から実施している「コミュニティーカウンセラー教育・研修プログラム」も、人気講座の一つ。自殺や家庭内暴力といった深刻な相談を受けた時、どのように対処すればよいかを、臨床心理学に基づいて指導している。

各大学が社会人の取り込みに力を入れる背景には、少子化に伴う18歳人口の減少がある。県立大研究地域連携室の佐藤光勇主査は「若者が減る中、学問研究だけではなく、県民の幅広い学びの需要に応じることで大学の存在感を高めていきたい」と話す。


■単語帳

ハートシステム 独立行政法人・大学入試センター(東京都目黒区)が運営する大学進学情報サイト(www.heart.dnc.ac.jp/index.php)。社会人選抜を行っている大学を探すことができるほか、各大学の公開講座の情報も掲載されている。全国の大学情報が蓄積されており、学びたい内容や興味にあったテーマから、自分に適した情報を選ぶことができる。

■ナビゲーターから

せっかく学んだ知識を、実際に役立てられれば、張り合いにもなると思います。他県の自治体やNPOの中には、自分の得意分野を登録しておけば、それに合った仕事やサークル活動などを紹介してもらえる仕組みを設けている所もあるようです。大学側も、地域ニーズに合った講義を設けるだけでなく、受講後の活動の場も含め、より充実した内容にしていってほしいと思います。(山口)