『読売新聞』社説 2009年2月3日付

浅間山噴火 監視の努力がいかされた


長期間にわたって地道に集めたデータが物を言う。その好例だ。

群馬・長野県境にある浅間山(2568メートル)が噴火した。小規模というが、噴石も飛散し、噴煙は一時2000メートルの高さまで達した。

近隣の長野県軽井沢町のほか東京都心や、横浜市、千葉県君津市など広域で降灰が観測された。

今後も、小規模噴火や中規模噴火が繰り返される可能性があるという。火口周辺では、噴火の熱で雪が解けて、泥流が発生する恐れも指摘されている。

大噴火したこともある山だ。当分、警戒は怠れない。周辺自治体や政府は、異変を見逃さないよう監視を続けることが大切だ。

今回は直前予測が成功した。以前から東京大が観測網を設け、近年の浅間山の活動も踏まえて気象庁と観測を強化していた。地震増加や山の膨張などのデータを1日までに得て、気象庁が同日、「噴火警戒レベル」引き上げを公表し入山規制も始まっていた。

予測成功は、警戒レベル公表の制度が2007年12月に導入されて、初めてとなる。それまで気象庁は、火山活動について情報を提供するだけで、対応は住民たちの判断に委ねられていた。

制度導入前の2000年に噴火した北海道・有珠山は一例だ。気象庁の監視体制も十分でなく、長年、有珠山を研究してきた北海道大が噴火を警告した。家を放棄して避難するよう住民に求めるべきか、自治体は判断に悩んだ。

今は、気象庁と関係自治体が事前に協議しておくことになっている。これを踏まえ、「平常」「火口周辺規制」「入山規制」「避難準備」「避難」の5段階でレベルを公表する。浅間山は今回、レベル2から3に上がっていた。

日本は火山国だ。108の活火山がある。浅間山の例は、他の火山でも、監視を続けることが重要なことを印象づけた。

ただ、こうした体制が整っている火山は21か所にとどまる。自治体の対応が固まっていないこともあるが、火山の観測体制が先細りなことも響いている。

これまでは各地の国立大が観測と研究を主導し、気象庁にもデータを提供していた。しかし、財源難で老朽化した観測機器を更新できない。研究者も減った。

文部科学省は来年度から、国立大が重点観測する火山を今の半分以下の15か所程度に絞る。浅間山や桜島など活発な火山以外は監視が手薄になる。それでいいか、検討しておく必要もあるだろう。