『読売新聞』社説 2009年1月21日付

株式会社大学 教育充実と経営安定を図れ


株式会社が開設した大学の弊害が、目立ってきた。大学には、教育内容の充実と安定的な経営が欠かせない。

経営のエキスパート養成を掲げた大阪市のLCA大学院大学が、2009年度から学生募集を停止する。大幅な定員割れと親会社の経営難が理由だ。教育面で一定の評価を得ていただけに、教育関係者の衝撃は大きい。

学校教育法では、学校を開設できるのは、国と自治体、学校法人だけだ。だが、03年に規制緩和で、自治体が申請して認定された構造改革特区に限り、株式会社にも学校設立が認められた。学校経営への新規参入による経済活性化と教育の質向上が狙いだった。

株式会社立大学をめぐっては、これまでにも経営母体の予備校と混然一体になった授業を行っていたLEC東京リーガルマインド大学など2大学が、文部科学省の改善勧告や指導を受けてきた。

これらは教育の質の問題だったが、株式会社立の学校は、当初から教育面とともに経営の継続性・安定性が危惧(きぐ)されていた。

構造改革特区法では、経営破綻(はたん)の恐れがあれば自治体が転学あっせんなどに責任を持つよう義務づけられており、自治体の責任は重い。常に経営情報の収集・分析に努めておかねばならない。

株式会社立学校は、大学が6校、高校が21校、小中学校が各1校ある。赤字のところが多い。

株式会社立学校は、学校法人と異なり、私学助成や税制上の優遇措置が受けられず、約3分の1は学校法人への移行を望んでいる。すでに運営主体を株式会社から学校法人に変えた大学もある。

特区で規制緩和の対象となった事業は、軌道に乗れば全国展開されるが、政府の構造改革特区推進本部の評価・調査委員会は今年度も、株式会社立学校については結論を先送りする見通しだ。

学生の満足度が高く、黒字の学校もある。だが、弊害の目立つ現状では全国展開は困難だろう。株式会社立学校という仕組み自体に改める点はないのかどうか、評価委や文科省は、利点と弊害を見極める必要があろう。

LEC大の問題を受け、文科省の大学設置・学校法人審議会は07年、同省に大学設置基準の見直しなどを求めた。大学の質を担保するため、規制緩和によって要件が緩められた大学設置基準の再検討作業が、現在進められている。

基準の改正を急ぐと同時に、ずさんな申請には厳正に対処していく姿勢が大切だ。