『朝日新聞』2009年1月20日付

三重大、地域密着に活路 少子化時代、「広報」「産学連携」で勝負


三重大学が「地域密着」をキーワードに広報活動や産学共同研究に力を入れている。独立行政法人化から4年。大学間の競争が激しくなる少子化時代を生き残るためだ。(姫野直行)

「熊野古道 再発見〜様々な道〜」

ガイドブックのようなこんなタイトルで熊野古道の見どころを写真入りで紹介するのは、広報誌「三重大X」の08年冬号。県立熊野古道センターと熊野地方の文化について共同研究を行っていることもアピールしている。

地域の人たちに、大学の取り組みを知ってもらおうと、05年3月に創刊。学内向けではなく中高生や社会人を対象にしているのが特徴だ。

大学の専門的な研究を、写真やイラストを駆使して短く簡単に紹介する。イベント情報を掲載したり、プロのカメラマンに撮影を依頼したりと、読み手を意識し、大学の広報紙とは思えない凝った誌面を目指している。

カラーA4変型判、30ページ前後の季刊。銀行のロビー、近鉄の駅構内などで無料配布している。創刊当時は1万3千部だった部数も、今は2万部を超えた。

好評を得た企画の一つが、06年秋号のピアノ演奏。モーツァルト生誕250周年を記念し、ピアニストの兼重直文教授が18世紀と現代のピアノを演奏、HPで聞き比べられるようにした。

最初から順調だったわけではない。研究を紹介するコーナーでは、論文のような原稿ばかり。そのたびに教授らを説得し、短く軟らかな記事に仕上げた。研究対象を現地まで出向いて取材した当初は、「何でそこまでする必要があるのか」と批判されることもあったという。

創刊時から編集する三重大広報チームの井上真理子さんは「4年でやっと定着してきた」。大学の広報誌の枠にとらわれずに、さまざまな企画を立てたいという。

●情報発信、ラジオでも

地域への情報発信は学生も担う。毎週金曜日の午後8時半から25分間、レディオキューブFM三重で放送している「Campus CUBE」。

皇学館大、鈴鹿国際大、高田短大の学生とともに三重大の学生パーソナリティーが、大学に関する情報や音楽を流している。

番組は07年10月、同FMが県内の大学に呼びかけてスタートした。三重大は広報誌などでの情報提供以外の新たな情報発信手段を探していたこともあり、参加を決めた。

三重大広報チームによると、学生が番組づくりに参加することで、広報誌を読まないような若者に情報を発信できるメリットがあるという。

●共同研究、全国で13番目の多さ 中小企業と連携、商品化 四日市に地域拠点も

三重大の産学連携による共同研究は07年度247件。三重大によると、これは10年前の約5倍の数で、私立を含め全国の大学で13番目に多いという。特徴は、積極的に地元の中小企業と連携している点だ。

例えば、伝統工芸の「伊勢型紙」とLED(発光ダイオード)に関する共同研究。さまざまな発色が可能なLEDを使った「心が安らぐ色」がテーマ。研究だけにとどまらず、発熱が少ないLEDの特性を生かした伊勢型紙の照明など、商品化まで結びついた。産学連携コーディネーターの相可(おうか)友規さんは「単に研究で終わってはだめ。いかに研究がマーケットにつながるかが重要」という。

三重大は03年10月に、企業が集中する四日市市に社会連携の地域拠点として「四日市フロント」を設立した。産学連携コーディネーターが常駐し、地元企業への技術支援や共同研究の働きかけで、大学の「知」を地元企業や自治体に還元し、地域を活性化することを目指している。

豊田長康学長は「かつては『象牙の塔』だったが、今の地方大学には地域貢献が重要」と話している。