『読売新聞』2009年1月9日付

地方国立大 「出張入試」に力


少子化が進む中、優秀な学生を幅広く集めようと、地方の国立大が近年、地元以外にも試験会場を設ける「出張入試」に力を入れている。

狙い通りに志願者を増やせた大学もあればそうでない大学もあり、専門家は、会場の増設だけではなく、大学の魅力を明確に打ち出すことを重視すべきだと指摘する。

出張入試の効果があったとするのは室蘭工業大だ。同大は2007年、札幌市と仙台市に入試会場を作り、昨年は名古屋市にも増設。ここ数年900人前後で推移していた志願者数は、昨年1074人に増加した。入試課の担当者は「もともと一定の志願者がいる地域に進出し、高校や予備校にアピールしてきた成果が出たのでは」と話す。

今年から兵庫県西宮市で出張入試を始める香川大は、関西地方で志願者の掘り起こしをはかる。

同大が昨年の志願者の出身地を分析したところ、四国地方47%、中国地方32%に対し、関西地方は11%だった。かつては、関西地方が20%以上を占めていたことや、受験世代の子供を持つ同大OBが比較的多く住んでいることから狙いをつけたという。入試グループの山田三千夫リーダーは「受験しやすい環境を作れば香川大に目が向くはず」と話す。

大手予備校「代々木ゼミナール」によると、今年、出張入試を行うのは18校。07年11校、08年17校と増加している。しかし、現実にはこの手でたやすく志願者を増やせるわけではないようだ。

東海地方の志願者を取り込もうと、昨年から工、理学部が名古屋市に入試会場をつくった富山大。工学部の志願者は前年から180人ほど増やしたが、反対に理学部は100人近く減らした。名古屋市には、福井大や山梨大なども進出し競合が激しいという。富山大の入試担当者は「受験生の動向を分析しきれない」と困惑気味。また、長崎大は卒業生が首都圏で教員になるケースがあることから昨年、教育学部の一部コースについて、横浜市で試験を行った。しかし「受験生へのアピール不足」(入試課)がたたり、横浜会場の志願者はゼロという結果だった。

教育評論家の和田秀樹さんは「地方の国立大は知名度が不足しているので、出張入試をする地域の高校や予備校に対し、事前に大学の魅力をしっかり売り込まないといけない。そうしないと、期待した成果は得られないだろう」と指摘している。(渡辺光彦)