『読売新聞』2009年1月10日付

消えゆく夜学 大阪市大も募集停止へ「格差広がる」声も
勤労学生今は昔?


60年近い歴史を誇る大阪市立大学の第2部(夜間課程)が、2009年度を最後に学生募集を停止する。企業や役所で働きながら学ぶ学生が減り、両立を支えるという本来の役割が失われてきたためだ。全国でも、夜間学部や夜間主コースを持つ大学は1999年度の104校から、今年度61校まで減少するなど、〈夜学の灯〉は急速に消えつつあり、景気悪化で経済的苦境に立たされる学生の増加が懸念される中、「苦学生の受け皿がなくなる」との声も上がっている。

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大阪市大の2部(商、経済、法、文の4学部)は50年に設立された。授業料は第1部の半額程度で、昨年10月1日現在の学生数は976人。地方から出てきた勤労学生らを受け入れ、これまでに計7700人の卒業生を輩出してきた。

元日弁連会長の鬼追(きおい)明夫弁護士(74)は57年の卒業生。弁護士事務所で勤務しながら学び、司法試験に合格した。「今の自分があるのは勉強の場を与えてくれた2部のお陰。多くの学生が貧しかったが、夢に向かって必死に努力していた」と懐かしむ。

しかし、時代とともにそのあり方は大きく様変わり。大学の調査では、2部新入生の正社員の割合は85年度に52%だったが、08年度は151人中1人だけ。ほとんどは昼間はアルバイトなどをしており、入学後に定職を見つける学生も07年度は17%にとどまった。

一方で、学力低下も指摘されているという。08年度の入試では、2部受験生の合格最高点は、全学部で、同じ試験を実施する1部の合格最低点より下だった。大学の担当者は「学力の面で2部を選ぶ学生が増え、勤労学生に高等教育の場を提供するとの趣旨が薄れた」と廃止理由を説明する。

これに対し、廃止に反対する学生らは「市大二部廃止問題を考える会」を結成。11月に2部学生305人にアンケートを実施したところ、53%が進学の理由に比較的安い学費を挙げたとして2部存続を求める。

大学の07年度の調査でも、親の年間所得が400万円未満という学生の比率は、2部が35・4%、1部は15・2%と大きな差が出ており、同会の泉谷亨輔代表(25)は「経済的に苦しい学生にとって2部は絶対に必要。景気が悪化する中、教育の格差が広がりかねない」と訴えている。

関西国際大の濱名篤教授(教育社会学)は「大学間の競争が激化する中、効率的な経営が求められているが、教育の多様な機会は残すべきだ。このまま不況が続けば、夜学の必要性が再び高まる可能性はある」と話している。