『朝日新聞』社説 2008年12月28日付

宇宙基本計画―軍事頼みでは先が細る


5月に宇宙基本法ができてから初となる来年度の政府予算案で、宇宙関係は3488億円と、前年度の10%増という大盤振る舞いが認められた。

宇宙技術を育て、国民の役に立てていくのは大切なことである。

しかし、内閣官房に置かれた宇宙開発戦略本部が来年の宇宙基本計画づくりに向けて今月まとめた基本方針を見ると、本当に日本の宇宙開発が活発になって国民生活に生かされるのか、大いに疑問がわいてくる。

これまで重点はロケットや衛星の技術開発に置かれてきた。基本方針は、それを利用重視へと変えるという。宇宙開発の将来を見据え、産業として育てようとするなら当然のことだ。

各省庁の縦割りで宙に浮きかけていた気象衛星ひまわりの後継機づくりについて、政府の責任だとはっきりさせたことも、重要な一歩だ。

問題は、日本の宇宙開発がその軸足を軍事の分野に大きく移そうとしていることである。

宇宙基本法は軍事衛星など安全保障目的の宇宙利用に初めて道を開いた。今回の基本方針も、重点分野として国民生活の向上に次ぎ、安全保障を挙げた。産業界も安定した需要が見込めるとしてこの分野の拡大を期待する。

戦略本部は、弾道ミサイルの発射を探知する「早期警戒衛星」の導入などを検討するという。だが安全保障の問題に関しては、宇宙計画が先走っていい話ではない。そもそも、日本が自前の早期警戒衛星を打ち上げるかどうかは、防衛計画の中では何も決まってはいないのだ。

しかも防衛機密のベールに包まれると、コスト評価が甘くなりがちだ。産業として競争の中で技術を鍛え育てていくうえでもマイナスになる。

そこで気になるのは、官民共同開発の中型ロケットGXの扱いだ。開発が難航し費用が大きく膨らんでいるが、自民党の一部が続行を強く主張してきた。戦略本部は技術や費用の検討がなお必要だとして判断を先送りしつつ、安全保障目的のロケットと位置づけ、開発を続ける可能性も残している。

河村官房長官は「宇宙予算を5年で2倍に」と言うが、開発の可能性も需要予測もはっきりしないものを安保の名の下に官需で救うというのでは、このご時世に国民の支持は得られまい。

宇宙開発に政府の役割が重要なのは間違いないが、官需への依存を減らしていくことこそが産業育成の面では大事なはずだ。基本方針は、宇宙分野以外からも広く知恵を求めてすそ野を広げることを大きな課題としている。この点からも、できるだけ民生分野で技術を磨くことが得策だろう。

産官学の壁を越え、斬新な発想で日本ならではの技術を育て、利用を広げる態勢づくりこそが必要だ。