『読売新聞』2008年12月19日付

学長
“オンリーワン”自負強く
滋賀大学 成瀬龍夫さん
教育改革 高い評価


経済学部と教育学部、両輪で進んできた滋賀大学。琵琶湖に近い2キャンパスから、個性豊かな人材を送り出して、来年、創立60周年を迎える。旧制彦根高商と滋賀師範の学灯を受け継いだ伝統を次代にどうつなぐのか。その展望と戦略を就任5年目の成瀬龍夫学長に聞いた。

(聞き手は田口晃也・論説委員)


――法人化後、学長として重点的に取り組んできたことは何ですか。

運営体制の整備と財政基盤の確立です。研究推進や全学教育、学生支援など重要なテーマごとに専門部会を設け、理事の分担と権限を明確化しました。財政面では、支出の8割以上を占める人件費を抑制するため、外部の有識者や定年退職した教員らを柔軟な雇用形態で活用する「特任教員制度」を始めました。この4年間でスプリングボード(跳躍台)を築き、魅力ある大学となる将来構想を描ける段階に入ったと思います。

――二つの学部にはどんな特色がありますか。

教育学部は、琵琶湖を舞台にした環境問題の研究教育で半世紀以上の歴史があります。2000年度からは国際協力機構(JICA)の委託で途上国から教員や指導者を受け入れ、研修も行っています。

経済学部は、近代的な経営管理に才覚を発揮した近江商人の戦前からの研究成果を、企業の社会的責任(CSR)を先取りした「三方よし」の標語とともに全国に発信してきました。両学部とも「オンリーワン」という自負があり、地域ブランドの向上にも貢献しています。

――文部科学省のGP支援事業に多数選ばれ、教育への評価が高いですね。

06年度に4件選定されました。「びわ湖から学ぶ環境マインド」は教育学部の蓄積を生かしたもので、経済学研究科の「リスクリサーチャー養成の教育プログラム」は、企業経営にかかわるリスクの評価・管理を専門的に教育する新しい試みです。いずれも法人化に合わせた教育改革が定着した象徴的な成果です。

――教育や就職の面で、卒業生から積極的な支援を受けていますね。

卒業生は大学の大きな資源です。経済学部では1999年度から、金融やメーカーなどの現役社員による経営講座や就職相談などを続けています。教育学部出身の教員OBによる実践的指導も行われるようになり、一時は1割台に低迷した教員採用試験の合格率が近年、7割以上にアップしています。

――福沢諭吉が「学問のすゝめ」のなかで提唱した「士魂商才」を重視する狙いは。

「士魂商才」は、経済学部の前身である彦根高等商業学校の建学の理念でもあり、経営の才覚とリーダーとしての教養を兼ね備えた人材の養成を指します。3年前から、新入生を対象にした学長講義のなかでも取り上げてきました。実学を学ぶだけでなく、統率力や向上心の大切さを伝えたいと思っています。

――滋賀医科大、京都教育大、京都工芸繊維大との4大学統合構想は今、どうなっていますか。

4大学の学長が年1回の意見交換を続けていますが、当面は各大学が自らの体制強化に専念することにしています。ただ、新制大学として発足した当初から総合大学化やキャンパス統合を目指してきた滋賀大にとって、統合は有望な選択肢です。

――地域や産業との連携で独自の取り組みを進めていますね。

自治体やNPOの職員を対象に、まちづくりの担い手を養成する教育プログラムを昨年から始めました。織物などの伝統産業のブランド化や地域振興イベントの開催などにも協力しています。今後は、こうした活動の中心になっている産業共同研究センターの拡充が課題です。

――10年度からの第2期中期目標・中期計画(6年間)では何を重視しますか。

社会の要請に応えられる高度専門職業人の養成を中心に、特色ある分野での世界的研究教育拠点の形成、社会貢献です。運営費交付金の削減など、大学を取り巻く環境は厳しさを増していますが、人的リソースを有効に活用し、学部の再編を進めることで、目標を実現する道筋をつけたいと考えています。

なるせ・たつお
高知県出身。大阪外国語大中国語科卒。京都大経済学研究科博士後期課程単位修得。京都府立大女子短大部助教授、滋賀大経済学部助教授を経て教授。学生部長、経済学部長などを歴任し、2004年から現職。専門は社会政策、地方行財政、生活経済。64歳。