『しんぶん赤旗』2008年12月3日付

科学者会議の研究集会分科会
若手研究者の就職難や雇い止め、生活苦深刻


大学院の博士号取得後に短期契約で大学などに在籍する研究者・ポストドクター(ポスドク)や非常勤講師など若手研究者の就職難や劣悪な待遇が社会問題になっています。日本科学者会議は名古屋大学で開いた総合学術研究集会(十一月二十二〜二十四日)の「若手研究者の研究生活と雇用」の分科会で研究者ら五人が、実態や背景、今後の課題を報告しました。

社会保険への未加入が96%

首都圏大学非常勤講師組合委員長の松村比奈子氏は非常勤講師のアンケート調査(回答者一千人余)を紹介しました。専業の非常勤講師は全国で二万六千人いるとのべ、アンケート結果からは、職場の社会保険への未加入者が96%、年収二百五十万円以下が44%、担当授業数は週九つ、雇い止め経験者が50%、といった平均像が浮かび上がるとして、専任教員との賃金格差や、突然雇い止めを言い渡される不安、研究者として扱われない苦しみを抱えているとのべました。

全国大学院生協議会の代表は、大学院生の経済実態のアンケート調査の結果を紹介し、最大の悩みが「就職不安」で、次に「経済上の不安」 だと報告。ここ数年アルバイト時間が増え続け「書籍を購入できない」 「学会に行けない」「研究時間がない」など研究生活が悪化していること、奨学金返済額が平均三百十四万円、博士課程修了時は六百万円以上抱えているとして、学費減額や免除制度、無利子奨学金の採用枠拡大につながる予算措置を政府に求めたいとのべました。

理系のポスドク研究員の立場から浜田盛久氏は、不安定で劣悪な労働条件と就職難の二つの困難に直面している実態を文部科学省などの資料から明らかにしました。任期は一〜三年が多く、六カ月未満や日々雇用のケースもあると指摘。また年々高齢化し、今では十人に一人が四十歳以上であること、月収十数万円で生活している人も多く、ある分野では二割の人が三カ月以上の無給を経験という調査を紹介。結婚もできないといった悲痛な声があることなどをのべ、常勤職員化や失業保険の適用など緊急課題を提案。大学の若手研究職を増やすなど就職難の解決策と、「若手研究者自身の運動が必要」とネットワークづくりなどの課題をのべ、「大学院で学んだ専門が生かされる社会をぜひ」と訴えました。

国の政策など背景の分析も

大学問題にくわしい研究者は背景などを報告。

千葉大学名誉教授の三輪定宣氏は、一九九〇年代の政府の大学院拡充政策によって大学院学生を急増させたが、修学・進路保障を伴わないので当事者に大きなしわ寄せをもたらしたと発言。さらに科学技術政策で、任期後の待遇などの手当をしないまま「ポストドクター等一万人計画」などを推し進め、国の政策が問題を深刻化させていると指摘。博士課程卒業者の就職率が50%台で、留年や失業者、非正規就職者の累積などをあげ、「若手研究者の研究生活・雇用保障は自助努力でなく」、 国の責任で制度的に改善を、とのべました。

名古屋大学助教の石井拓児氏は、今日の「大学改革」を経済のグローバル化に対応して進められた「新自由主義大学改革」ととらえ、そこで若手研究者ポストの流動化・不安定化が起きていると指摘。新産業の創出を課題にする経済界・産業界は、伝統的な大学の枠組みを壊したかったとして、プロジェクト型の研究を担う若手研究者の育成を目的に任期制導入が進められてきたとのべました。しかし、これは「学問体系の継承・発展に重大な問題になる」と強調しました。