『読売新聞』社説 2008年11月25日付

大学の地域貢献 ネットワーク構築が課題だ


大学のキャンパスで、地域のお年寄りや子供連れなどの姿を、よく見かけるようになった。

図書館や博物館の一般開放、市民講座の開設など地域貢献を積極的に進める大学が増えている。

全国の市区町村と大学の間で締結された連携協定は、500件を超えている。

少子化が進む中で、大学が学生を確保していくためには、地域での存在感を示すことが大切だ。

独立行政法人に移行した国立大学が、寄付金集めを進めていく上でも、地域や社会への貢献が問われるようになった。

2006年に施行された改正教育基本法は、大学に対して「知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供すること」を新たに求めている。

厳しい財政事情を抱える地方自治体にとっても、大学の施設や人材を活用する意義は大きい。

「地域に開かれた大学」は、時代の要請とも言える。

大学の地域貢献の方法は、多様化しつつある。

最近、東京・渋谷駅の連絡通路に設置された岡本太郎の巨大壁画の招致運動の一つの核となったのは、街づくりへの協力を掲げる研究センターを設けた地元の青山学院大学だった。

群馬大学では、授業の一環のインターンシップとして、学生が地域の日系ブラジル人児童の日本語学級を訪ね、学習をサポートする事業を展開してきた。

銀行などの協力も得て基金を設け、学生ボランティア活動を支援する宇都宮大学の事例もある。

こうした活動をさらに後押しするためには、地域に貢献する大学への政府の支援を、より一層進めていくことも必要だろう。

大学と自治体の担当者間のパイプはできたが、担当者以外には、連携の意義が理解されず、組織全体の動きは鈍い場合が多いとの指摘もある。両者の間で、より一層の意思の疎通が大事だ。

多様化する地域の要望に対して一つの大学だけで対応することは難しくなってきている。

政府は今年度から、戦略的大学連携支援事業を始めた。複数の大学が共同事業体を作り、連携して地域の要望などに応える。

大分大学など8校による「高度人材養成拠点の構築」をはじめ54の取り組みが選定された。

全国の765の大学が知的インフラとしてネットワークを構築することが出来れば、地域の活性化へ大きな力となるに違いない。