『産経新聞』2008年11月12日付

【教育】大学全入時代 中教審、作業部会設置し具体策研究


■進むべき改革の道探る

希望すれば誰でも進学できる「大学全入時代」に入り、大学教育のあり方をめぐる議論が本格化している。「ゆとり教育」世代の学生の質低下が懸念される一方、55%という高い大学進学率で学生のニーズが多様化する中、これからの大学に求められるものは何か。中央教育審議会の大学分科会が作業部会を立ち上げ、具体的な検討に動き出したのだ。“大学再編”さえも視野に入れながら大学の進むべき道を探る過程になりそうだ。(福田哲士)

≪学位プログラム≫

「今の大学は、入れ物をみても中身がよく分からない状況。中身をみせるためにも学位プログラムの確立が必要」「学生の力を高めるための制度でなければ、意味がない」

10月29日に開かれた「学位プログラム検討ワーキンググループ」第1回の会合では、大学の将来を見据えた委員から厳しい意見が相次いだ。

大学分科会が立ち上げた13のワーキンググループの中でも、大きな柱と位置づけられているのが、この「学位プログラム」に関するグループだ。

「学部」という組織内で行われていた従来の教育システムに対し、教育目標や研究目的に沿ったカリキュラムで教育するのが「学位プログラム」の考え方。突き詰めれば、学部や学科という枠を取り払って、日本の大学のあり方を根底から変える可能性もあるという。

≪再編視野?≫

今回始まった審議は、これまでの審議と何が違うのか。文科省は「これまでは観念的な議論が中心だったが、これからは『大学は具体的に何をすべきか』を検討していく」と説明する。

平成20年度における国内の大学数は4年制が752校、短大で385校。しかし、私立4年制の定員割れは今春、47・1%と過去最悪を更新。地方の小規模大学を中心に経営難は深刻化している。

だめな大学はつぶれてもおかしくない時代で、大学は改革を迫られている。

こうした現状を踏まえ、鈴木恒夫文部科学相(当時)は9月、「中長期的な大学教育のあり方について」として中教審に諮問。

社会や学生の多様なニーズにいかに対応していくか▽グローバル化が進む中で大学教育のあり方▽人口減少期における大学像−の3点がポイントとなった。

「大学のあり方自体を見直すということ。具体的に問題点を洗い出せば、あるべき姿がみえてくる。大学再編につながる可能性もある」(文科省担当者)

≪質どう確保≫

大学全入時代は、ニーズに応えなければ学生を確保できないという“刃”を大学に突きつけた。その一方、大学はさらに高い「質」を問われている。これは、大学の経営全般に影響を及ぼしかねない問題だ。

ある大学分科会のメンバーは「学生を集めるために入学しやすく、卒業しやすい大学では『質』を維持できない。しかし、高い水準の教育を維持するには、資金が必要。このバランスをどう取るのかが課題」と指摘する。

「学位プログラム」と並んで、大きな柱となっている「質保証システム検討ワーキンググループ」では、こうした課題にも踏み込んでいくことになりそうだ。

とはいえ、こちらも手探りのような審議が始まったばかり。座長の広島大高等教育研究開発センター長、山本真一教授は「まだ入り口に着いたばかり。どこから手を付けていけばいいのかと思うほど。のんびりはできないが、長い道のりになるのでは」と話す。

「人間は本来、好奇心がいっぱい。それに応える教育システムが必要だ」。今年、ノーベル賞物理学賞を受賞した益川敏英京都大名誉教授は、塩谷立文科相にこう苦言を呈した。

質確保と同時に、未来のノーベル賞学者を育てる世界レベルの教育・研究環境をどう整えるか、全入時代の大学改革は緒に就いたばかりだ。

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■設置されたワーキンググループ

学位プログラム      国内外の教育課程などの分析 
通信制と通学制の大学   メディア活用教育のあり方など
質保証システム      諸外国の設置基準などの分析 
学生支援         学生の修学支援などのあり方 
資料調査整理       様々な調査の新規企画と整理 
大学グローバル化     国際競争力向上への取組分析 
国際的な大学評価活動   国際的な大学ランキング分析 
高等教育規模分析第1   大学進学率の国際比較など  
高等教育規模分析第2   大学設置認可の現状などの分析
全国共同利用       人的資源などの有効活用を分析
地域の人材養成需要    地域の人材需要に関する分析 
OECD教育の成果評価  学習成果の評価の専門的な調査
専門的人材養成のあり方  医療系人材などの論点整理など