『科学』2008年10月31日号

厳しい国立大学病院経営、本来の使命遂行へ


国立大学附属病院の経営は限界にきており、地域医療の中核として高度先進医療を実現するためには、来年度予算を充実するとともに、次期中期計画期間における運営費交付金算定ルールも適切なものにしなければならない。国立大学附属病院長会議は10月27日の総会で、国立大学病院の現状と使命遂行のための今後の取り組みについて提言をとりまとめた。常置委員長の河野陽一・千葉大学医学部附属病院長は「医療崩壊は危惧ではなく事実となっている。社会全体で議論を始めることが大事だ」という。

国立大学病院はこれまで、医療人の育成、先端医療の研究開発を進めるとともに、地域の中核として質の高い医療を提供してきた。例えば、今年8月の1週間の初診患者のうち紹介患者は62%で、うち19%が地域の中核的医療機関からの紹介だ。新入院患者のうち48%が紹介で、うち25%は中核的医療機関からの紹介となっており、地域における最後の砦としての機能を果たしている。

分娩件数や救急患者も増加しており、分娩件数はこの4年で33563356件増えて19年度には1万5584件に、救急車搬入患者数は2万2667人増え、7万112人にもなっている。さらにハイリスクの分娩が増えているという。1患者あたりの平均入院日数は21.7日から18.3日と約3.5日短縮したことで、新入院患者は8万3044人増え、51万3090人となっており、限られた病床を有効活用して医療の抑制にも取り組んでいる。

また、最後の砦として機能を果たすため、集中治療室(ICU)や小児集中治療室(NICU)に地域医療機関から受け入れている患者が多数いるが、これらの重症・難症の患者の治療は、通常よりICU等に入院している期間が長くなり、保険診療上の加算期間を超えて入院しているため、超えた部分は請求できない。

不採算であっても治療の必要上から入院している患者が多く、1大学病院あたりICUで約5900万円、NICUでは約4600万円が請求できない経費になっている。

しかし、財政面で見ると、19年度決算における病院セグメント情報では6大学病院が赤字となっており、文部科学省の修正損益ベースでは16大学病院が赤字となっている。ただし、国立大学法人法のセグメント情報では財務諸表のうち損益計算書のみであるため、借入金の償還額は計上していないため、病院長会議で実際のキャッシュフロー計算書を作成したところ、28大学病院が赤字となり、全病院合計で76億円の赤字になるという。

赤字の大きな要因となっているのは、運営費交付金の大幅な削減だ。病院への運営費交付金は16年度の584億円から47.1%(275億円)も減少している。今年度は前年度と比べ58億円減少していることから、同じ医療を提供するためには58億円の純利益をあげる必要がある。医薬品等の購入を行う必要があるため、130億円ほどの増益を図らなければならないものだという。

こうした状況が続いた場合、どのような影響が出るのかを病院長にアンケート調査した結果、医療の質及び安全性の確保は82.2%、非採算的な高度診療機能は93.3%、臨床系講座の教育機能は82.2%が低下すると答え、臨床系講座の研究機能については全員が低下すると回答した。また病院運営についても、93.3%が労務問題に悪影響が出ると回答し、医師確保でも91.1%が確保困難、地域医療への貢献では91.1%が低下すると回答している。

大学病院で高度医療機器の開発や提供ができなくなったり、臨床研究を行う時間がなくなったりすると、教員のモチベーションが低下し、医師確保が困難→医師不足・看護士不足→医療の質及び安全性の確保が困難→大学病院の使命の遂行が困難→大学病院の崩壊→日本の医療の崩壊といった負のスパイラルが危惧されるという。

そこで病院長会議では、来年度の予算編成において地域貢献が可能となるよう医師不足対策人材養成推進プラン等の実現を図ること、22年度から始まる第2期中期目標・計画期間における病院運営費交付金の見直しにあたっては国立大学病院がその使命を果たしうるものにすることを、政府に求める提言を取りまとめた。