『朝日新聞』2008年11月13日付

群大学長選び三つどもえ


鈴木守学長が来年3月末で任期満了を迎える群馬大学で、新学長の選考作業が進んでいる。13日には、副学長で元医学部長の小沢瀞司(せい・じ)氏(67)、現医学部長の高田邦昭氏(56)、工学部長の宝田恭之氏(56)=50音順=の3人の候補者について、教職員による「意向聴取投票」を実施する。地域での存在感が大きい国立大学法人のトップ選びは、早ければ17日の学長選考会議で決着する。(高重治香)

3人は、3キャンパスで行われた教職員組合主催の立会演説会や、同組合の公開質問状への回答で意見を述べている。

政府が国立大学法人の運営費交付金を毎年3%カットする方針を決めたことについて、小沢氏は「容認できない。国立大学協会として戦略的に戦うべきだ」と主張。高田氏は「他の国立大学法人と連携しながら役割をアピールする必要がある。旧帝大とは立場が違う、地方の大学としても意見を言うべきだ」、宝田氏は「最大限反対する。ただし、血税をいかに効率的に使うかという不断の努力が前提だ」とそれぞれの信念を開陳した。

大学の外部から資金を獲得することの重要性は全員が指摘した。

また、来年度末に治療を始める重粒子線治療施設が大学の財政を圧迫するのではないかという質問に対して、同大重粒子線医学研究センター長を務める小沢氏は「年600人を治療すれば運営経費をカバーできる見込みだが、そうなるまでの期間は赤字だ」と予測。文部科学省への概算要求や募金の計画に着手していることを明らかにした。

一方、高田氏は「財政的に大きな問題があるが、いかに成功させるかを考えるべきだ。他の病院、地元自治体との連携が重要だ」と主張。宝田氏は「これまで学内でも情報の共有が不十分だった。全学的な協力体制のもとで、健全運営のための経営企画をしたい」と訴えた。

次期学長の任期は09年4月〜13年3月。任期は1期目が4年、2期目が2年。最大2期までで、鈴木学長は2期6年間務めて退任する。

08年度の同大入学者のうち群馬県出身者は約51%。

◆投票結果参考に選考会議が決定

国立大学法人の学長選考の基本的な方法は、国立大学法人法で定められている。同法は、学部や研究科の所属長らからなる「教育研究評議会」と、学長が任命する外部有識者を含む「経営協議会」から選出された委員に、学長または理事を加えた「学長選考会議」が学長を選ぶと規定する。

群馬大の学長選考会議は、評議会、協議会のメンバー各4人と理事3人からなり、経営協議会メンバーの高橋康三・上毛新聞社社長が議長を務める。また、学長候補は評議会、協議会が推薦することとしている。

法人化前は学内投票で学長を決める大学がほとんどだったため、今も多くの大学で教職員に意向を尋ねる投票が行われる。ただし、学長選考会議が投票結果をどのように選考に反映させるかについて一定の基準はない。

群馬大では講師以上の教員、副課長・副事務長以上の職員などを対象に「意向聴取投票」を行っている。同大の常勤教職員は約2千人おり、今回の有権者はこのうち約580人。投票は、不適任と考える候補に「×」をつける方式で、「有効投票総数の半数を超えて不適任とされた候補の人数」のみが公表される。選考会議は投票結果を「参考」にして、学長を決める。

高知大では07年、意向聴取投票で2位だった候補が選考会議で学長に選ばれたことから、1位だった候補が大学を相手取って高知地裁に提訴、高知地検に告発する事態に発展した。滋賀医科大、新潟大でも訴訟が起きた。

群馬大では04年の法人化以降、06年は投票が行われたものの、候補は鈴木守学長1人だったため、新しい学長選考の仕組みの本格的な運用は今回が初めてになる。