『河北新報』社説 2008年11月11日付

大学発ベンチャー/産学官が連携し支援拡充を


大学・高専など学術研究機関の技術や研究成果を生かして設立された「大学発ベンチャー企業」が、右肩上がりで増えている。東北でも増加の一途をたどり、ものづくり産業の一翼を担う動きとして注目されている。ただ、多くの企業が資金調達や販路開拓などで苦戦しており、企業が増えたと手放しで喜べる状況ではない。

経済産業省の調査(2007年度)によると、大学発ベンチャー企業は全国で1773社(前年度比11.5%増)に上る。経産省が「大学発ベンチャー1000社計画」を提唱して支援策を打ち出してきたのに加え、大学が地域貢献を求められるようになったことが、知的財産の社会還元である大学発ベンチャー企業の増加に結び付いているとみられる。

東北は127社(前年度比10.8%増)で、大学別では東北大が56社で最も多く、会津大25社、岩手大23社、山形大8社などと続く。業種別ではソフトウエアやバイオテクノロジー、機械・装置、素材・材料などが多数を占める。01年度からの企業数の伸びは約3.1倍と、首都圏や近畿圏を上回っており、東北はこの分野で存在感を高めつつある。

これに対し、各企業が直面する課題は、「資金調達が難しい」「販路の開拓、顧客の確保が難しい」「人材の確保、育成が難しい」の3点に集約される。東北経済産業局のアンケートでも、この3点を課題に挙げる企業が圧倒的に多く、大学発ベンチャー企業の厳しい現実が浮き彫りになった。

資金面でみれば、現在は官民出資によるベンチャーファンドなどが定着しており、地域でのベンチャー向け資金は10年ほど前に比べれば格段に潤沢になったといわれる。

だが、研究成果を市場性のある製品にして販路に乗せ、資金回収するという一連のビジネスプランがなければ、ファンドなど投資機関側は、ベンチャーといえども容易に資金提供には応じない。企業側が経営戦略をきちんと描けるかどうかが、資金調達の大きな鍵となるといっていいだろう。

大学教授ら研究者が、最先端の技術・知的シーズ(種)を基に起業するケースが多く、企業経営の未経験者が経営トップに就くことも珍しくない。企業側が課題に挙げるように、経営戦略を描けるマネジメント面での人材が不足しており、この点が資金調達にもマイナスになるという悪循環に陥っている。

必要なのは、投資する側が納得できるような経営目標を、企業側が設定することだろう。自治体など産学官が連携し、経営ノウハウを持ったベンチャー向け人材の育成・供給、販路開拓を狙った展示会の開催、企業への経営指導などを、積極的に展開することも求められる。

大学発ベンチャー企業は小回りが利く分、大企業が手掛けないような斬新な製品開発の可能性を秘め、地域の研究者らにとって新たな雇用の受け皿にもなりうる。景気の後退局面だからこそ、支援策を考えたい。