『西日本新聞』社説 2008年11月5日付

法科大学院 地方を切り捨てぬ改革を


司法改革の理念である実社会で活躍する多様な法曹=法律家(裁判官、検察官、弁護士)を、本当に育てられるのか。創設から4年目を迎えた法科大学院制度が、早くも揺らいでいる。

法科大学院の修了生を対象にした新司法試験の合格率は、48%だった2006年の1回目から減り続けている。今年は前年より7ポイント低い33%にまで落ち込み、合格者ゼロの大学院が3校あった。

これを受け、中教審の特別委員会は入学定員の削減や統廃合を提言した。全体として法科大学院の定員を絞り込んで学生の質と教育の質を確保し、合格率の向上を目指そうという考えである。

文部科学省は今月中旬まで各校から聞き取りをして、年内にも改善策の提出を求める方針だ。結果次第ではより強い行政指導に乗り出すことも考えられる。

法科大学院には社会に開かれた司法改革を支える役割がある。その「質」が疑われるとは、ゆゆしき事態である。

新司法試験の合格率は70−80%と想定されていた。当初の目算が外れたのは、大学院の乱立と過大な定員にある。

法科大学院は全国に74校あり、総定員は約5800人だが、定員割れが46校もある。2年続いて定員不足に陥っている大学院は28校に上る。実績が伴わない大学院に学生が集まらなくなるのは自然の流れであり、定員削減や統合再編もやむを得ないだろう。

ただ、制度設計を誤り、74校も認可した文科省の責任も指摘したい。バスに乗り遅れるなとばかりに相次いだ申請を認めた失敗のツケがきている。

事態の改善についても注文がある。文科省は大学院個々の合格率や改善策ばかりに目を向けずに、あらためて法曹養成機関の適正配置を考えてもらいたい。

法科大学院は6割以上が関東、関西に集中している。定員が100−300人の大規模校も首都圏、関西圏がほとんどだ。

法曹の大部分である弁護士の大都市偏在と相似形であり、このままでは、地域に根差す弁護士の養成という司法改革の大事な狙いは一向に実現しないだろう。大学院の定員削減も再編も、まずはこうした大都市圏から進めるべきだ。

学費だけでも年間100万−200万円必要で、地方の学生が大都市圏で学ぶ経済的負担は重い。一方で、地元で弁護士になる夢を抱く学生は少なくない。地方の法科大学院の存在意義は大きいのだ。

九州・沖縄にも国立、私立合わせて計7大学に大学院があるが、定員が100人の九州大を除いて、すべて小規模校である。国が目指す法科大学院改革が、地方切り捨てになってはならない。

同時に、地方の大学院の合格率が総じて低迷しているのは事実だ。福岡大は来年度から50人の定員を20人減らし、個別指導を充実させるという。何が足りないのか、ほかの大学院も指導態勢を検証し、ぜひ自己改革をしてほしい。