『朝日新聞』2008年10月20日付

「おもてなし」でもトップ級に 東大病院、猛勉強中


東京大学医学部付属病院(東京都文京区)が「おもてなし」の姿勢を身につけようと取り組んでいる。医療水準はトップ級でも、患者に接する態度に気を配ってこなかったという反省からだ。国立大学も法人となり、サービス精神が求められる時代。「親方日の丸」体質の改善を目指す。

マナーや対話術などを学ぶ「接遇(もてなし)講座」はこの2年半で約50回を数える。看護師を中心にのべ3千人以上が参加した。例えば、こんな内容だ。

良いマナーの普及を担当する外来接遇係の看護師が2枚の写真を示して解説する。

「左はやぼったくみえます。右は身だしなみが整い、すっきりして頭がよさそう。できるスタッフという印象を与えます」

続いて講師として招かれた化粧の専門家が、自然なメークと清潔な髪のまとめ方を指導した。最後に、栄木実枝看護部長が「人は見た目が9割と言います。患者に印象のよい看護師でありたいと思います」と呼びかけた。

東大病院は06年4月、「接遇向上センター」を発足させた。法人化で民間と同じような病院運営を迫られるなか、患者との接し方を問題視する声が出たからだ。「医療レベルは大学病院のトップを切ってきた自負があるが、患者に親切であったかというとお役所的な部分があった」とセンター長の大内尉義教授。「民間病院ではイメージアップの取り組みに予算を付けるのは当たり前。今さらと言われるかもしれないが、時代の流れを受けての見直しです」

診察に待ち時間はつきものだが、最初に一言、「お待たせしてすみません」と言えているか。患者の顔よりパソコン画面のカルテを見てばかりの診断説明になっていないか。そんな接し方一つが病院の評価につながるという意識に欠けていたという。

センター設立のきっかけには、「気持ちよく受診してもらえば治療効果も上がるはず」という期待もあった。

講座のほか、笑顔やあいさつ、身だしなみの基本をまとめた冊子を職員に配布。特別講師に、乳がん患者の経験をもつ元テレビ朝日アナウンサーの山口容子さんや映画監督の山田洋次さんを招き、「心の通った人とのつきあい」を語ってもらった。好感度の看護師を投票するコンテストも実施する。

医師の参加が少ないのが課題だが、外来担当の看護師は「まだまだだけど、言葉遣いとか患者への対応が少しずつ変わってきた」と話す。

昨秋から院内の売店で「サンキューカード」(40円)の販売を始めた。ポストカードの形式で、気持ちのよい思いをした相手にメッセージを贈って励ましにしようという試み。職員間のやりとりが主だが、患者からの反応も期待しての売店販売だ。月に100枚ほど売れているという。(井上恵一朗)