『河北新報』社説 2008年10月15日付

地域と自動車産業/産学官連携で道を切り開け


ものづくりには夢がある。コツコツ努力し、粘り強く事をなし遂げる東北には、その土壌がある。県境を超えた産学官の連携で東北をものづくりの拠点にし、世界に羽ばたいていこう。

11日に仙台市青葉区の東北大100周年記念会館・川内萩ホールで開かれたシンポジウム「地域と自動車産業」(主催・東北大、河北新報社、財団法人東北大研究教育振興財団)の議論は、こんな趣旨が込められているのだろう。東北の力が今、まさに試されていると言える。

チャンスが目の前にあることは疑いない。周知の通り、トヨタ自動車の車両生産子会社セントラル自動車(神奈川県相模原市)が宮城県大衡村への本社ごとの移転を決定したのを手始めに、有力企業がエンジン、車載用電池、カーエアコンなど東北への新工場建設を続々と表明した。

特定の地域に、これほど集中して投資が行われるのは全国的にも珍しく、しかも自動車産業は2万から3万の部品から成るすそ野の広い産業だ。地元がこの好機を生かさぬ手はない。

今回のシンポジウムは、自動車産業と地域振興の在り方を探るスタート台だ。
 一体、ものづくりの原点とは何か。忘れがちだったものづくりの夢、面白さが語られたのは、とても意義深かったと思う。

人間の考えたことが実際にものになる、頭の中にあるものがリアルになる。難題が多く、一筋縄ではいかないからこそ、達成したときの喜びはとてつもなく大きい。汗と油まみれの現場だとしても、この面白さがある限りやめられない。そして、出来上がったものが人の役に立つとき、うれしさがまたこみ上げる。

ものづくりは、人の夢であり、努力、格闘の場なのであり、実にすがすがしい行為だ。

困難だから、息の長い仕事だからこそ、やりがいがあるのだろう。品質、低コスト、納期など厳しい条件が課されるだろうが、地場企業はそれに挑戦し、進出企業のパートナーとして、ともに成長、繁栄していく道を求めなければならない。

二つ目に強調されたのは連携、つながりの大切さだ。得意技を互いに生かし、補完し合う中小・零細企業同士の連携、進出企業が地場企業に人材を送り、品質管理や生産技術を指導する連携、組み立てや部品納入などについて県境を超えて分担する連携などだ。

特に、産学連携では大学の役割について大きな提言があった。ともすれば、先端技術や次世代技術の開発にウエートを置き、地元企業の底上げに寄与した力は弱かったのではないかという点だ。産学連携の意味を再考する必要がある。

金融機関も、きらりと光る地場企業の発掘に努め、地場振興につなげてほしい。自動車産業の相次ぐ進出は、立地というより東北の産業構造を大きく変える歴史的出来事であり、人、もの、金を循環させ、東北の発展を期したい。