『東京新聞』社説 2008年10月9日付

ノーベル化学賞 若い研究者も後に続け


日本の科学技術の実力を示す快挙が続いた。三人のノーベル物理学賞受賞に続き、下村脩氏の化学賞受賞も決まった。この勢いを失うことなく、若い基礎研究者は後に続いてほしい。

下村氏は、オワンクラゲ(発光クラゲ)の発光器官から「緑色蛍光タンパク質(GFP)」を発見した業績が評価された。

GFPをつくる遺伝子を他の生物のDNAに組み込めば、特定のタンパク質が作用したとき緑色に光る「標識」として使え、生きた細胞内での物質の動きの観察が可能になる。医学など生命科学の研究推進に画期的な成果をもたらした。

前日の三人の物理学賞受賞決定に続き、わが国のノーベル賞受賞は快進撃といってもいいほどだ。

再度、日本人の研究が世界的評価を受けたことを喜びたい。

下村氏の活躍の場は米国にあった。長崎大で生物発光の研究に取りかかり、名古屋大助教授時代にウミホタルの発光タンパク質の結晶化に成功したものの、国内での知名度は高いとはいえなかった。

受賞対象の業績は、研究の場を米国に移してからである。

前日、物理学賞受賞が決まった南部陽一郎氏の業績も米国で成し遂げられた。遡(さかのぼ)れば、同じく物理学賞受賞の江崎玲於奈氏(一九七三年)、医学・生理学賞受賞の利根川進氏(八七年)も米国など海外での研究が評価された結果だ。

共通するのは、下村氏らが国内にとどまっていたら、国際的に認められたかどうかだ。

米国に世界中から研究者が集まるのは、独創性のある研究の意義を十分に認め、年齢や地位に関係なく、正当に評価し、それに見合った処遇をすることが背景にあると指摘されている。

日本人研究者が海外で活躍するのは歓迎だが、その理由が国内では自由に研究できないためであれば、研究体制を根本的に反省しなければならない。

わが国も九六年から始まった三期にわたる「科学技術基本計画」で、 若い基礎研究者の処遇を徐々に改善してきてはいる。だが、依然として博士課程を終えた若手研究者の多くが就職できないなど、とても十分とはいえない。

基礎研究は一見、何の役にも立ちそうにないが、後になって思わぬ成果を生む。科学技術にはこうした基礎研究の支えが欠かせない。若い基礎研究者が国内で安心して研究に打ち込める体制づくりこそ今、最も求められている。