『河北新報』社説 2008年9月7日付

医学部定員増/偏在なくす道筋もつけたい


医師不足対策として、大学医学部の定員を大幅に増やそうという動きが本格化してきた。厚生労働省の検討会が現在の1.5倍増を「将来の目標」に掲げ、文部科学省は来年度の定員を過去最多とする方針を決めた。

いずれも、政府が6月に医師数を抑制する従来の方針を転換したことを受けたものだ。

地域医療の崩壊が言われる中で、当然のことであろう。両省が連携して、目標年次とそれに至る手順を決め、しっかりと軌道に乗せてほしい。

同時に、地域間、さらには診療科間にある「二重の医師の偏在」を是正する取り組みが必要だ。そうしなければ、地域医療の再生は到底おぼつかない。大学も地方も知恵を絞り、住民が安心して医療を受けられる態勢を整えていきたい。

厚労省の「安心と希望の医療確保ビジョン具体化検討会」は先ごろ、医学部の総定員を将来的に現在(約7800人)の1.5倍となる約1万2000人に増やすべきだ、と提言した。

目安となったのは経済協力開発機構(OECD)加盟国の人口1000人当たりの医師数(2006年)だ。平均で3.1人。日本の医師数は2.1人だから約1.5倍。ほかの先進国並みの水準を目標とした。なにはともあれ、具体的な数値を掲げたことは評価したい。

これを受ける形で、文科省が発表した来年度の医学部総定員は8560人に上った。本年度より一挙に1割も増え、過去最多だった1982年度の定員をも220人上回る。

質の高い教育を維持するためには、定員増に見合う教員の増加や学習施設・設備の充実が欠かせない。そのための財源確保が当面の焦点となろう。

もちろん、医師数を増やせば、地域医療に光が差すというわけではない。

大都市に集中するといった医師の地域的な偏在に加え、診療科にも偏りがある。救急や産科、小児科は医師が足りない。そのしわ寄せもあり公立病院の勤務医らが過重な労働を強いられ疲弊している。救急患者の「たらい回し」が後を絶たず、妊婦が「出産難民」と呼ばれるほど危機的な状況にある。

大学には、こうした医療の現状を改善するための定員増であることを認識し、地域医療に貢献することを教育の軸に据えて、実効ある医師養成を目指してもらいたい。

地方自治体も医師の地元定着を図る取り組みを強化したい。医学生への奨学金制度や待遇改善策に加えて、大学と連携し学生に地域医療の必要性を訴え、同時に地域の魅力を知ってもらう機会を設けるのも一つだ。

もっとも、医師偏在の解消を図るには国による制度の充実・見直しが不可欠だ。厚労省の検討会は、救急・産科・へき地で勤務する医師に対する各種手当の支給や、地方の拠点である公立病院の医師不足につながっているとされる現行臨床研修制度の見直しなども求めている。

現状を変えるためには、できるものから早急に手をつけていかなければならない。