『読売新聞』和歌山版2008年9月7日付

外部に「理念」伝わったか
進まぬ和大・博物館改革


大学と博物館。和歌山の文化や学術を代表する機関の改革が、思惑通りに進んでいない。背景には、計画を進める側の「理念」が、必ずしも周囲に伝わっていない現実がある。

県立の博物館(和歌山市)、近代美術館(同)、紀伊風土記の丘(同)、自然博物館(海南市)の4博物館施設について、県教委は今春の人事異動で、現職の館長を副館長に降格した。「活性化を図りたい」として、大学教授など、専門家を館長に迎え入れる計画だが、半年近くたっても、就任を受け入れる適材は1人も見つかっていない。

県教委の方針については、内部からも「館長は名誉な職だから、簡単に決まると考えたのだろうが、そんなに甘くはない」との声が聞かれる。確かに、突然、「館長になってくれませんか」と頼んでも、同意は得られないだろう。

一方、「和歌山市の中心市街地に拠点を置き、活性化に一役買う」としていた和歌山大の観光学部も、入居先の候補となった施設と費用などの条件が折り合わず、先月、正式に進出を断念した。

大学側は一時、「地元の協力が見えない」と和歌山市を非難したことがあった。が、実際にどの建物に入居し、費用はいくらかといった議論をどの程度積み上げ、相手に伝えてきたのか、疑問だ。

博物館施設の館長選びと大学の市街地進出。共通しているのは、ともに相手があり、自分の都合だけで進められる計画ではないということだ。

館長不在の事態に、県教委の担当者は「見通しが甘かった」と認める。和歌山大の小田章学長は、記者会見で「我々の期待が高すぎた面もある」と話した。

県教委や和歌山大が目指したもの自体が間違いだとは思わない。だが、実現するには常識的な感覚が必要だ。そのためには、準備段階から、外部との意思疎通を活発にするべきだったのではないだろうか。(上村真也)