『琉球新報』社説2008年9月1日付

医学部定員増 根本的な課題克服が優先


医師不足が叫ばれて久しい。助かるべき命が、救急医療機関で受け入れを拒まれ死亡した事例は遠い過去の話ではない。すべての国民が、等しく医療サービスを享受できる体制をいかに構築するかが問われている。

文部科学省は、深刻化する医師不足に対応するため、2009年度の大学医学部の総定員数を本年度より約770人多い8560人程度とする方針を決めた。過去最多だった1982年度の8280人程度より280人の増だ。

文科省は8月中旬までに各大学から意向を聴取した結果、大学側も8560人規模の受け入れが可能と判断した。

琉球大学医学部医学科は、来年度入学者選抜で新たに「地域枠」2人を導入する。これにより従来の定員95人が97人となるが、今回の文科省の意向聴取でさらに5人増を求めた、という。

医学部の定員を増やすことで、医療現場の抱える課題を克服できるのだろうか。

厚生労働省の統計によると、06年の県内医療施設従事医師数は2849人(男性2391人、女性458人)で1998年より551人も増えている。なぜ医師不足が生じるのか、疑問も残る。

「医師は一線から退いても統計数字に入るため、実態把握が難しい」(県福祉保健部)という。

医療訴訟に加え“24時間勤務”の産婦人科医や外科医が敬遠され、整形外科や皮膚科などへの偏在化も指摘される。

日進月歩の医療の世界にあって女性医師は、育児休業で1年間も空白が生じることへの恐れを抱いているとの声も耳にする。

「医療経済実態調査」によると病院勤務医の所得は開業医の半分で、病院勤務の20代男性医師の勤務時間は週57・4時間、同年代の開業医は38・1時間だ。

このような医師を取り巻く労働環境と、格差是正の改善が優先されなければならないだろう。