『河北新報』社説 2008年8月17日付

ものづくり立国/たゆまぬ人材育成が肝要だ


ものづくりは、ひとづくりと言われる。製造業のウエートが飛躍的に高まることが確実で、産業構造の変革期を迎える東北。各県で、その担い手を育てる取り組みが活発化している。

揺るぎない「ものづくり立国」を実現するため、産学官が手を携え、幅広く息の長い人材育成戦略を推し進めていきたい。

2010年、自動車、電子機器両産業の集積が進む。宮城、福島にトヨタ自動車グループ各社の拠点工場が相次いで進出。宮城県大和町で半導体製造装置大手・東京エレクトロンの工場も操業し、東芝は北上市に記憶用半導体・フラッシュメモリーの工場を新設する。

すそ野が広い自動車と電子機器にかかわる産業に加え、双方が融合したカーエレクトロニクス産業の振興に対しても、地元の期待は高まる。

ここで忘れてならないのは、各社がこぞって東北を進出先に選んだ理由だ。決め手の一つとなったのは「優秀な人材、労働力を確保しやすい」ことだ。裏を返せば、労働力の受け皿が脆(ぜい)弱(じゃく)な東北の産業構造がもたらした工場進出ラッシュといえる。

だが、単なる労働力の供給に終わらせてはならない。進出企業を地元にしっかりと根付かせ、同時に、それら企業との取引を目指す地元中小企業の開発力・技術力をアップさせるためにも人材の育成が肝要だ。人材確保に危機感を募らせる既存進出企業の不安も和らげよう。

もっとも、東北各県が取り組むのは、主に「10年」を念頭に置いた即戦力の養成だ。

宮城はエンジンやトランスミッション(変速機)といった高機能部品の構造に関する技術を習得する研修などを実施。自動車産業参入を目指す地元企業技術者の能力向上に取り組む。

岩手と秋田で相次いだのは自動車や家電に組み込まれ、部品の働きを制御する「組み込みソフトウエア」の技術者養成を目指す産学官連携組織の設立だ。車の電子化に欠かせず、新しい部品・システムの開発に結び付く技術。人材不足が深刻で、どこの企業も欲しい技術者だ。

長い目で見れば、製造業を取り巻く環境は厳しさを増すだろう。原油や資源の高騰に、中国やインドなど新興国との国際競争も激化する。一層のコスト削減、環境対応も求められる。企業が必要とする人材の質は高くならざるを得ない。

今は多くが東北域外に流出する国立大理工系の学生や高専生らの地元定着は図られよう。肝心なのは「卵たち」の育成だ。

少子化の中で各県の高校再編が進む。その再編効果を生かし工業高校に金型や加工に加え高度なIT技術も学べる環境を整備したい。企業との連携を深め技術者らによる「生きた授業」や生徒が実習するインターンシップも手厚く展開できないか。

現場の大変さや面白さに触れる機会が増えれば理解は深まる。小中学生にも、そうした場を提供したい。子どもたちが「なぜ」をはくぐめるよう、理数科の授業にも工夫が要る。

10年後、20年後を見据えたひとづくりも望みたい。