『読売新聞』2008年8月6日付

日本学術会議、基礎研究 支援充実求める


日本学術会議は、応用開発型研究が政策的に優遇される一方、基礎研究を担う大学、研究機関の予算が削減され、次世代の人材育成にも悪影響を与えているとして、基礎研究の支援充実を求める提言を発表した。

科学技術の施策立案、評価に科学者が主体的に参画できる仕組み作りの必要性も指摘した。

提言は〈1〉基礎研究の充実へ適切な資源配分〈2〉大学・研究機関の支援強化〈3〉研究を支える基盤の整備〈4〉創造性を育てる教育体制の整備〈5〉若手研究者が夢を持てる環境の整備――の5項目。

背景にあるのは、科学技術が生む経済的効果だけが強調され、根幹となる知的創造活動としての基礎研究の重要性が軽視されているという危機感だ。

企業を含めた科学技術研究費の総額は2006年度18兆5000億円で過去最高となった。生命科学や情報通信、環境など特定分野に研究予算が重点的に配分される一方、自由な発想に基づく基礎研究を支える経費は削減されている。地方国立大などでは十分な教育、研究が行えず、機材の修理などを教員が自費で賄うこともある。提言は、こうした状況を「科学の格差社会」と表現。「明日を担う研究者の育成も危機的」と警告、基盤的な経費を充実し、教育、研究の幅広いすそ野を確保する必要性を強調した。

また、博士号を取得しても定職に就けない「博士余り」が深刻化していることについて、「若手研究者は将来に夢が持てない状況に置かれつつある」として、大学院生への経済支援の拡充などを訴えた。

提言をまとめた谷口維紹(ただつぐ)・東京大教授は「科学技術の競争力の強化に、多様な知識の蓄積が欠かせない。基礎研究の軽視は、明日の芽を摘みかねない」と訴えている。(杉森純)