『読売新聞』2008年7月29日付

[解説]全入時代の大学評価


「学生の面倒見」基準に情報公開の姿勢重要

読売新聞社が実施した「大学の実力 教育力向上への取り組み」調査からは、大学の情報公開に対する姿勢も読み取れる。(編集委員 中西 茂)

【要 約】

◇全入時代を迎え、「面倒見の良さ」が大学評価の基準として重要になる。

◇大学側も積極的な情報公開が求められており、事務職員の重要性が増している。

日本の大学は事実上、全入時代を迎えている。定員割れしている大学も多い。そうした中、全国の725大学の7割近い499校が回答した今回の調査(20、21日朝刊掲載)では、400校を超える大学が、退学率や、標準修業年限(4年制大学なら4年)での卒業率を回答した。定員を下回る学生数を答えた大学も100以上あった。

経営的に答えにくい質問にも大学が回答した点に大きな意味があり、まず、その点に敬意を表したい。

調査結果からは、地方の大学に定員割れが目立つことがわかる。東京の私大はさほどでもない。大学の努力だけではどうしようもない面もある。退学率や卒業率は、大学が入学させた学生に厳しく対応している結果とみることも出来るし、留学という要素も加わる。

数字だけでは良しあしは単純には判断できない。後は、この数字を見た側が個々の大学について、読み解いてもらうしかない。

いまや大学は大きく様変わりしている。

20年前、30年前の大学生で、入学時にリポートの書き方を教わった人はどれだけいるだろうか。大規模な大学で、授業に出席するよう働きかけられた経験を持つ人も限られるはずだ。

しかし、今回の調査ではすでにほとんどの大学で、何らかの「大学での学び方教育」を実施していた。出席を促す大学も、回答大学全体の6割以上あった。

教育力向上への取り組みは総じて、小回りのきく大学の方が進んでいて、大規模大学に不十分な点が目立つ傾向もある。知名度が高いからといって取り組みが必要ないわけではない。学力が十分で、特別な配慮や施策は不要と答えた大学は、わずか34校にすぎなかったからだ。

全入状態で、どこまでが合格圏かという偏差値が示せない大学も少なくない。今回の調査は今年4月から、国が大学に組織的な教育力向上の取り組み(FD)を義務化したことが直接のきっかけだ。これからは、入学してからどれだけ学生を伸ばせるかという点が、偏差値に代わる指標として重要になる。調査はそういう問題提起でもある。

回答結果は、あくまで自己評価だ。読者の現役学生からは「評価が甘すぎる」という声も届いた。夏休みに入った大学はいま、オープンキャンパス(大学見学会)が花盛りだ。見学を夏休みの宿題にする高校も珍しくない。大学関係者に質問をぶつけ、教育の中身を吟味してほしい。

また、情報公開は職員の力量がカギを握る。

情報公開に積極的な聖学院大学(埼玉県)では、受験生に渡すデータブックに、卒業生アンケートの満足度、志願者数や受験倍率、専任教職員数、クラス規模、奨学金利用者数までわかるようにしている。聖徳大学(千葉県)では、個々の教員の名前入りで、学生による授業評価と改善点までを記し、冊子にして公表している。

こうした情報を示すには、教職員の協力が欠かせない。産学連携などでも重視されている職員の力を、この際、大学は見直すべきだと思う。

一方で、大学に対する社会の評価も、変わってほしい。面倒見の良い大学が、もっと高く評価されるように、受験生や保護者、さらに社会全体が、大学を評価する上で別の視点を持ってほしい。