『読売新聞』2008年7月26日付

さまよう「博士」、修了者の25%が「浪人」
大学には残れず 就職も厳しく


大学院の博士課程を修了した若者たちの就職難が止まらない。特に苦労しているのが文系の人たちだ。大学教員は狭き門。民間の受け入れ先も少ない。そんな中、面接のコツを教えたり、就職先を紹介したりする企業も登場している。(社会部 竹井陽平)

文部科学省の調査によると、昨年3月の博士課程修了者1万6801人のうち行き場のない人は4146人。実に25%が「浪人」を余儀なくされたのだ。しかも、この数字にアルバイトなどは含まれていない。

「この先どうなるんだろう」。早稲田大学大学院博士課程に在籍中の牛山美穂さん(28)は不安になる。文化人類学専攻。論文が完成したら複数の大学に送り、助教など研究職を探すつもりだ。が、周囲には博士号を取っても給料の安い非常勤講師をかけもちしなければ生活できない人が多く、牛山さんは「どこでもいいから正規の仕事を」と焦りを隠さない。

「高学歴ワーキングプア」(光文社新書)を著した水月(みづき)昭道さん(41)は「博士号を取っても、大学教員になれるのは数十人に一人」と語る。自身も博士。今は立命館大学の研究機関の研究員だが、2011年3月には任期が切れるため、また就職活動をしなければならない。「コンビニで働いている人もいる。今や大学院はフリーター生産工場だ」

民間企業も採用には消極的。博士課程の修了は最速27歳だが、留学などで30歳を過ぎ、企業の募集年齢を超えてしまう人も多いからだ。さらに企業側には「専門知識で頭はこちこち」「社会常識や協調性に欠ける」といった偏見が広がっているという。

大学院生専門の就職支援会社「D・F・S」(東京・渋谷)の林信長社長(33)は真っ向から反論する。「院生は優秀です。なにせ一つの研究をやり遂げた人たちだから。何もしなかった学生より能力は磨かれている」。同社は一昨年から受け入れ先の企業を開拓。大学院生の就職指導も手がけている。

院生自身が自分の能力に気づいていないケースもある。順天堂大学大学院の博士課程でスポーツ社会学を専攻した市川朋香さん(28)は当初、就職試験に落ちまくった。Jリーグが研究テーマだったため、サッカーチームの運営会社やマスコミを受験。面接では決まって研究成果を“発表”したが、採用担当者の反応は今ひとつだった。

市川さんは、林さんの会社でアドバイスを受けて目覚めたという。「研究を通して、自分には分析力、論理力、発表力が身についているのではないか」と。自己の適性に気づき、IT関連のデータ解析会社を受けた市川さんは、すんなり合格。この春から新入社員として元気に働いている。

バブル時代の教育政策で膨れあがった高学歴な人々が、迷路に入り込み、扉が開くのを待っている。

大学院生倍増計画 大学院生が増えた背景には、大学院生の数を倍にすべきとした1991年の大学審議会の答申がある。大学院を新設する大学への補助金が増額され、大学院が作られた。91年時点で320だった大学院の数は、昨年5月には598に。院生も約10万人から約26万人に増加した。