『読売新聞』社説2008年7月22日付

医師不足対策 増員だけでは10年かかる


医師不足を解決するには、相当に思い切った対策が必要だろう。

厚生労働省がまとめた「安心と希望の医療確保ビジョン」を具体化するための有識者会議が発足した。

厚労省は新ビジョンで、医師の養成数をこれまでの「抑制」から「増員」へと方針転換した。

医学部の入学定員を現在の約7800人から、どこまで増やしていくのか。有識者会議はまず、これを明示する必要がある。

医師数の抑制方針がとられる以前は、最大で年間8300人の医師を養成していた。ピーク時の水準までは早急に回復させるべきだろう。その上でさらに増員するのか、展望も示さねばなるまい。

だが、医学部の入学者が一人前の医師になるまでには、10年程度かかる。増員計画と同時に、即効性のある対策も不可欠である。

喫緊の課題は、新人医師の臨床研修制度の改善だ。

かつて新人医師の大半は、大学病院の医局で研修していた。しかし、専門分野に偏った医師が育つ弊害が目立ったために、一般病院でも研修できるようになった。

若い医師に幅広い臨床能力を身につけさせるという、制度の目的は理にかなっている。

ところが、研修医が予想以上に減って人手不足となった大学病院が、自治体病院などに派遣していた中堅医師を引き揚げた。

これが急激な医師不足現象の大きな要因である。研修医の多くは都市部の病院を研修先に選び、医師偏在に拍車もかけつつある。

これを改めるには、研修先の選択方法に工夫が求められる。各都道府県に満遍なく研修医が配属されるような定員調整が必要だ。

また、これまで大学の医局に医師派遣を頼ってきた自治体病院に対し、必要な医師を配置する仕組みや組織作りも重要である。

有識者会議は、診療報酬の在り方にも踏み込んでもらいたい。

今日の医師不足は、言い換えれば「勤務医不足」だ。

総じて勤務医は、開業医より収入が低く、長時間勤務で医療に従事している。産科や小児科、救急など、昼夜を問わず診察を求められる部門は過酷だ。耐えかねた医師が開業医に転身している。

現状に歯止めをかけるには、勤務医向けの診療報酬を大胆に手厚くする必要があろう。開業医が交代で病院の夜間診療を応援する、といった取り組みにも、大いに報いるべきだ。

本当に必要な医療に、財源を集中することが重要である。