『毎日新聞』社説 2008年7月11日付

看護基礎教育 4年制大学化に向け動き出せ


厚生労働省の「看護基礎教育のあり方に関する懇談会」が、これまで専門学校を中心に行ってきた看護師の養成を将来、4年制大学に移行する方向性を打ち出した。医療の高度化などに対応するために、看護職員の資質の向上が求められており、4年制大学での看護師養成は当然の流れである。

日本の大学化の取り組みは遅いと言わざるを得ない。欧州や東南アジアの各国では、すでに大学での養成が行われている。懇談会では「20年先の中長期のあり方」として、大学化を提言したが、悠長なことを言っている時間はない。

大学で看護師養成を行うには、教員の養成や現在ある3年制の専門学校など看護師養成所と大学との統合など、事前の準備に相当な時間がかかる。大学化となれば、厚労省だけではできないので、文部科学省などとの調整も必要だ。

高齢化によって「多病・多死の時代」がすでに始まっている。20年先などと言わず、看護基礎教育の大学化は待ったなしで、準備に取りかかるべきだ。

世界で最も早く進む高齢化の下、看護師の役割は今後ますます重要になる。医療機関だけでなく、広がる在宅医療を現場で支える看護師の仕事は専門性や判断力が求められるようになっている。

現在、専門学校などで8割、大学で2割の看護師が養成されているが、3年制の専門学校では詰め込み教育にならざるを得ない。看護の基礎教育をみると、老年看護学、精神看護学など新しい科目が増えた結果、専門学校では1科目当たりの授業時間や実習時間が減っている。日本看護協会が新卒看護師にアンケート調査したところ「専門知識・技術が不足している」(77%)「医療事故を起こさないか不安」(69%)という答えが返ってきた。こうした点が、就職して1年以内に看護師の1割弱が離職する背景になっている。

医療を支える貴重な人材が、仕事への不安や疲弊によって職場を去っていくことを何とか防ぐことができないものか。欧米では短時間勤務の正職員制度がある。こうした制度を導入して結婚や出産による看護師の離職を減らすための手を打つべきだ。

医師不足への対応策として、看護師により高いレベルの仕事を役割分担してもらうことも今後の課題となっている。また医師と看護師らによるチーム医療を円滑に行うためにも、看護教育の一層の充実を図ることを国民は望んでいる。

大学化を進めると同時にやるべきことがある。看護師の労働条件改善や社会的評価をもっと上げていくことだ。厳しい勤務に耐え献身的に医療を支えている看護師の賃金など処遇を改善し、働きがいのある職場環境を作り上げていく必要がある。