『愛媛新聞』社説 2008年7月7日付

教育振興計画 財源がなければ画餅に終わる


「教育立国」を宣言、「欧米主要国を上回る教育の実現を図る」とうたう割には予算の裏付けがなく、実効性に疑問を抱かざるを得ない。政府が先ごろ閣議決定した教育振興基本計画のことだ。

計画はまず、五年間に重点的に取り組む施策として「小中学校教職員の定数の在り方を検討する」としている。具体的な数値目標はないが、増員を意図する。

ほかにも「道徳教育の教材作りの国庫補助制度」「幼児教育の無償化」「小中学校施設約一万棟の耐震化促進」などを掲げている。すべて財源が必要な施策だ。

にもかかわらず、その財源は「経済協力開発機構(OECD)諸国など諸外国を参考に、必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保する」としているだけだ。

文部科学省は「毎年の概算要求を通じて予算を確保したい」というが、それではあまりにも心もとない。基本計画で示したはずの「今後十年間を通じて目指す教育の姿」が、毎年の予算折衝次第でぶれかねない。

四月の中央教育審議会答申を受け、政府内で行われた調整では、教育予算や教員の大幅増をもくろむ文科省と、歳出削減を進めたい財務省の間で激しい対立があった。

例えば文科省は、国内総生産(GDP)に占める教育投資の割合を現行の3・5%からOECD諸国平均の5・0%に拡充するなどの数値目標を掲げ、約七兆円の予算上乗せが必要だと主張した。

しかし、その七兆円をどのように使うのか、投資の増額で教育の姿はどう変わるのかといった具体像を、最後まで示せなかった。財務省や総務省を説得できなかったのも無理はない。

結果的に、議論は数値目標を明記するかどうかに終始。少子化が進む日本の教育をどうするかなど、本質的な議論は置き去りにされた。

計画に盛り込まれた「一般行政職に比べて高い教員給与の優遇措置縮減」も疑問だろう。教員には質が求められる。人材の確保には、ある程度の優遇は必要だ。ましてや今は教師受難の時代だ。

授業時間数を大幅に増やす改定学習指導要領の全面実施は、小学校で二〇一一年度、中学校で一二年度に迫っている。予算や教員増の裏付けがなければ、現場の負担だけが増すことになる。

教育は「国家百年の大計」だ。改正教育基本法の目玉として初めて策定された振興計画には、それだけの内容がなく、文科省の気概も感じ取れなかった。
 このままでは画餅(がべい)に終わる可能性が高い。単なる数字合わせではなく、現場の実情を踏まえた具体的な議論をもう一度やり直すべきだ。