『山陽新聞』社説 2008年7月4日付

教育基本計画 本当に投資拡充できるか


政府は、今後十年間を通じて目指す教育のあるべき姿や、五年間に重点的に取り組む施策を盛り込んだ初の教育振興基本計画を閣議決定した。

国の発展の原動力となる人づくりのため「教育立国」を宣言し、「欧米主要国を上回る教育の実現を図る」との到達目標を掲げたが、具体的な道筋は不透明と言わざるを得ない。

基本計画は、二〇〇六年の改正教育基本法で策定が義務付けられた教育政策の柱となるものだ。しかし、その裏付けとなる教育予算や教員定数に対する数値目標は盛り込まれなかった。計画の実効性が担保されるのか疑問である。

教育投資について、文部科学省は「国内総生産(GDP)に占める教育投資の割合を現在の3・5%から経済協力開発機構(OECD)諸国平均の5・0%超に拡充する」と数値目標の明記を主張していた。目標実現には約七兆円が必要となる。このため歳出削減を求める財務省が強く反対し、「諸外国の支出を参考に必要な予算について財源を措置し、教育投資を確保する」と示すにとどまった。

授業時間数を大幅に増やす改定学習指導要領の導入に伴い、小中学校の教職員定数を約二万五千人増やすとの数値目標も見送られた。「教職員定数の在り方などを検討」といった抽象的な表記に変更された。新指導要領の全面実施は小学校で一一年度、中学校で一二年度に迫っている。予算や教員増の裏付けがなければ、しわ寄せを受けるのは教育現場であることは間違いあるまい。

五年間で重点的に取り組む事項では、道徳教育の充実のため独自の教材づくりを国が支援する必要性が指摘された。いじめ、不登校などへの取り組みでは、外部の専門家からなる「学校問題解決支援チーム」などを活用するとした。さらに、大地震で倒壊する危険性が高い小中学校施設約一万棟の耐震化の促進なども盛り込まれた。

教育再生は政府の重要課題である。基本計画をめぐる調整過程で数値目標の明確な論拠、数値では測りにくい教育という将来への投資をどう考えるのかといった本質的な理念が十分議論されたのかどうか疑問が残る。

結果的に数値目標が盛り込まれなかったことで、文科省は毎年の予算確保に苦心することになろう。緊縮財政の下では、予算獲得は容易ではあるまい。教育現場の実態を踏まえた上で主張の根拠を強め、説得力ある議論を深めることが必要ではないか。「教育立国」宣言をお題目で終わらせてはなるまい。