『朝日新聞』2008年6月30日付

授業の質 連携で高めろ


教育の質を向上させるためのファカルティー・ディベロップメント(FD)と呼ばれる取り組みが、今年度から大学で義務化された。既に8割以上の大学で実践されているが、どれだけ「実効性」のある取り組みにするかが課題とされる。そんな中、ノウハウの共有でより充実したFDを目指そうと、大学間の連携を進める動きが広がっている。(大西史晃)

◆「FD」義務化で各地に協議会

「(居合や吹き矢を)グループに分けて回転させながらやっていた。みんなが楽しめるようすごく工夫されている」「ほめるのがとても上手」

4日、山形市の山形大で、同大の教員ら6人が懇談会を開いていた。直前にあった竹田隆一教授によるスポーツ実技の「武道」の授業を参観した上で、感想を出し合う。

山形大がFDの一環として行っている公開授業の取り組み。公開する側はもちろん、参観する側の授業改善にも生かしてもらうことが目的で、「大切なのは授業中の学生の反応」といったポイントをあらかじめ参加者に伝えるなど、効果を高めるための工夫もうかがえる。

山形大は、FDに熱心に取り組んでいることで知られる。99年からワークショップを始め、その後、学生も対象にした授業改善アンケート、公開授業などの取り組みを次々と導入。さらに、近年力を入れているのが大学の枠を超えたネットワークづくりだ。

04年に、県内6大学・短大のFD担当者からなる協議会「樹氷」を設立。今年3月には対象を東日本に広げ、「つばさ」をつくった。発足時の参加校数は東北地方を中心に大学、短大、高専を合わせて35。それぞれが培ってきたFDの成果の共有などが目的だ。

つばさの設立は、今年度からFDが義務化されたこともきっかけ。議長に就任した小田隆治・山形大教授は「ネットワーク化することで互いの勉強の場が増え、バラエティーも広がる。それぞれの大学や短大に自分たちのニーズに応じた選択をしてほしい」と話す。

会員校には活動に関する情報の共有も呼びかける。竹田教授の公開授業の開催もメールで連絡。岩手県からは一関高専の清水久記教授が見学に来た。工学が専門という清水教授は「工学の授業は一方的になりがち。常に学生を見ながら、個別に指導していく竹田先生のやり方はとても参考になった」。

つばさは、合宿形式のセミナーや、個別の教員の授業改善を支援する「授業改善クリニック」なども計画している。小田教授は「保健医療、短大などの分科会をつくり、学問の専門性や学校の設置形態に合わせたFDを推進していきたい」と、将来像を語る。

こうしたネットワーク化の動きは関西でも進む。4月には、「相互研修型」のFDの推進を掲げた「関西地区FD連絡協議会」ができた。参加する大学・短大は発足時で100校を超えており、授業評価の研究なども共同で行う予定。

代表幹事校である京都大の大塚雄作・高等教育研究開発推進センター教授は「ネットワークをつくれば、自分たちだけでは気付かない点も見えてくる。協議会を、教育を活性化する場にしていきたい」と話す。

◆中教審「成果は不十分」

FDは一般に、教員の授業内容や方法を改善するための組織的な取り組みのことを言う。99年に努力義務が課され、08年度からは設置基準の改正で、大学のほか短大や高専でも義務化された。文科省の06年度の調査では、全体の約86%の628大学が実施。内容は「講演会等の開催」が416大学と最も多い。

だが、学士課程(学部)教育の在り方について話し合っている中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の部会は今月公表した答申案で、FDが「我が国全体として教員の教育力向上という成果に十分つながっているとは言い切れない」と指摘。課題として一方向的な講義にとどまっている点や、教員相互の評価、授業参観などが十分に根付いていない点を挙げた。

文科省の担当者は「せっかく学生に授業評価させても、それをFDにフィードバックさせていないケースなどがある。FDの必要性を大学自らが自覚し、納得した上で臨んでもらわないと効果は少ない」と話す。

中教審は答申案で、FDのほか事務職員らを対象にした能力開発(スタッフ・ディベロップメント、SD)の重要性を指摘し、「大学間の協同の体制づくりに向け、関係者が主体的な努力を払うとともに、国としても適切に関与していくことが求められる」とした。

私立大学情報教育協会が加盟大学・短大の専任教員を対象に行った07年度の調査では、授業改善に向けた「一大学で解決できない課題」の回答として、大学では「FD成功事例・授業コンテンツのアーカイブ(保存記録)化」が32.2%、短大では「大学間共同による分野別FD研究の振興・普及」が33%と最多だった。