『日本経済新聞』社説 2008年7月2日付

「教育」が見えぬ教育振興計画


「教育立国」を高らかに掲げているわりには、総花的で胸に迫るものがない。新しい教育基本法の規定に基づき、政府がきのう閣議決定した初の教育振興基本計画である。

計画には、今後10年間の大きな方向性と5年間に取り組む個別の施策を盛っている。しかし取りまとめの過程では具体的な議論は置き去りにされ、教育への財政支出について数値目標を明記するかどうかをめぐって延々と時間を費やした。

もともと中央教育審議会が4月に出した答申では数値目標は記していなかった。ところが自民党の文教族議員などから批判が高まり、文部科学省は(1)教育支出を10年間で国内総生産(GDP)比5%に引き上げる(2)教職員の定数を5年間で2万5000人増やす――などを打ち出した。

これに財務省などが強く反発し、迷走の果てに結局は数値目標盛り込みを見送ったのが今回の計画だ。

たしかに日本の教育支出はGDP比で約3.5%と、経済協力開発機構(OECD)諸国の平均である5%とは開きがある。特に、国際的な人材育成競争にさらされる高等教育段階での見劣りは憂慮すべきだ。

しかし、ひたすら数字を巡る攻防に終始したのは不毛だった。「学校をこう変える」「こんな人材を育てる」といった未来図を示し、メリハリをつけたうえで投資額を導き出すべきではなかったか。財政規律を重んじる財務省などと議論がすれ違いに終わった要因はここにある。

個々の施策をみても「社会全体の教育力を向上させる」「世界トップの学力水準を目指す」などと多彩ではあるが、突っ込んだ手立ては書き込んでいない。目立つのは「検討する」「図る」「推進する」といった役所用語だ。「教育立国」への決意は、そこからは伝わってこない。

もうひとつ気になるのは、教育の地方分権に向けた熱意が欠けていることだ。計画は地方の自主性を尊重する姿勢をにじませてはいる。しかし本気で分権に踏み出すなら、学習指導要領をはじめとして国の画一的な統制を緩める必要がある。計画にそうした発想はみられない。

10年先まで見据えたという長期計画だが、こうした内容で時代の激変に本当に耐えられるのだろうか。