『沖縄タイムス』社説 2008年6月24日付

[医師増員]
偏在解消を急ぐべきだ


地域の深刻な医師不足に対処するため政府は、医師数の「抑制」という従来の方針を改め、計画的に「増員」していく考えを打ち出した。四半世紀ぶりの路線転換である。

医師が過剰になったり、医療費が増えたりすることを懸念して政府は一九八二年、「医師数の抑制」を閣議決定した。

医師不足が社会問題化したことを受けて二〇〇六年、一部大学医学部の定員増を認めたが、その時にも「引き続き医学部定員の削減に取り組む」との一九九七年の閣議決定は変えていない。

今回、九七年の閣議決定を見直し、「抑制」から「増員」への路線転換を打ち出したことは、医師不足解消に向けて政府が本腰を入れて取り組む姿勢を示したものと受け止めたい。むしろ遅過ぎたぐらいだ。

地域医療をむしばんでいる医師不足には、さまざまな要因が複合的に絡んでいる。

若い医師は先端の技術を学びたいという意向が強く、離島や辺地には行きたがらない。過重労働を強いられる病院勤務に嫌気がさして、条件のいい開業医に変わる医師も後を絶たない。訴訟リスクを抱える産科や小児科などは、敬遠されがちだ。

二〇〇四年に新人医師の臨床研修制度が義務化され、都市部への研修希望が集中した。研修医が減った大学病院は過疎地などに派遣していた医師を引き揚げた。

問題なのは、「医師の偏在」が急速に進んだ結果、必要な医療が受けられないという深刻な現象が各地で起きていることだ。

県議会の二月定例会で仲井真弘多知事は「女性医師の再就業の支援や勤務環境の改善を図り、中長期的な医師確保につなげていきたい」と答えた。

医師不足が深刻な産科や小児科の女性医師の中には、子育てと仕事の両立に悩んでいる人が少なくないという。しばらくの間、「非常勤で、短時間働きたい」と希望する女性医師に対しては、多様な勤務形態を認めるなどの柔軟な子育て支援策が欠かせない。

琉球大学医学部の定員を増やしても、それが直ちに県内の医師不足の解消につながるわけではない。新人医師が、医師不足を訴える離島・辺地や産科・小児科などに勤務して初めて、医師不足解消に役立つのである。

医師不足で困っている地域や医師の少ない診療科目に新人医師を誘導していくためには、魅力的な施策を打ち出す必要がある。

福田康夫首相は、社会保障費の歳出抑制路線は今後も堅持するという。医師増員のための財源はどこから捻出するつもりなのだろうか。政府内の調整は進んでいないようだ。

財源問題が詰められていないため、どのくらい医師を増やしていくのかも、まだはっきりしない。

政府は社会保障費の伸びを年二千二百億円ずつ圧縮する目標を掲げ実施してきたが、抑制路線を維持するのはもはや困難だ。

医療費の削減が、結果として「医療崩壊」を招いている現実を直視しなければならない。