『読売新聞』2008年6月20日付

学長
中四国の「学都」へ総力戦
岡山大学 千葉喬三さん
研究水準高める教育力


「知を巡る競争に勝ち残ったもののみが、国を、大学をも制する」。今年4月、2期目を迎えた就任あいさつは、全入時代に鋭く切り込んだ。めざすは、中四国の「学都」。数ある大学の頂に立つという。壮大な構想の道筋を岡山大学の千葉喬三学長に聞く。

(聞き手は本多宏・科学部長)

――「学都」、強力なメッセージですね。

国立大の法人化は「天の時」でした。国の付属機関だった時代、地方大は何もさせてもらえなかった。法人化によって個性を出せと求められ、独自の才覚で動けるようになりました。さらに、中四国のどこからでもアクセスできる「地の利」。それに「人の和」、教育の力、学術の力です。国公私立を問わず中四国の中核になる、その意気込みを示したのです。

――中四国全域から学生が集まるでしょうか。

何でもかんでも関東や関西に行っても、メリットはない。学部の壁を取り払った総合大学院は、岡山大が老舗。間口や受け皿が広く、幅広いことができる。若い人や社会のニーズにも見合う。運営費交付金や人員が削減される中で質を保つには、全体の力を集めるのが必然的な流れです。

――近隣の大学に理解されないのでは。

戦略的連携と言って、法科大学院を一緒にやろうと提案したが、うまくいきませんでした。でも、好き嫌いやわがままは絶対に言えなくなる。10年後、中四国の大学がすべて残っているという見込みはないですよね。東京や大阪に行かなくても学べる受け皿が一つは必要でしょう。残るなら堂々と先頭を切る意気込みがなければつぶされます。

――2010年度からの第2期中期目標・計画期間の6年間が勝負と位置づけている。

第2期が終わる時にはセレクションがかかるでしょう。ヒマラヤ山脈みたいに、ピークとして国際的に通用する研究が四つ、五つあり、それを支える教育力を高地のレベルに保っておく。国立大でも上から数えるのが早い高みにしておきたいのです。前提として、伸びそうな若手を研究に特化させ、一方で積み上げた実績をもとに教育で貢献する教員と、研究教育を両立する教員を分ける。中期計画には教員の機能分化を盛り込もうと思っています。

――学部では問題を発見し、解決する能力を重視していますね。

学問のおもしろさを実感できるような教育が学部教育です。現象の奥に隠された真理を発見する感激が伝わらなければ、勉強しませんよ。それに、教育は先生と学生が共に進化することです。改訂した独自の基礎教科書には演習問題を多く取り入れ、先生も考えるようにしました。

――独自のAO入試をやるマッチングプログラムはユニークです。

画一的な教育に抵抗を感じ、「変わったことができるなら」という学生が集まっている。陸上中距離のエース小林祐梨子さんはじめ、基礎学力もやる気もある子ばかりですが、偏差値秀才ではない。学部学科を超えた履修、担任制など個性に応じた教育で隠れた才能の発掘に成功しています。ただ、同じやり方を大学全体には広げられません。試行錯誤ですね。

――優秀な人材を育てても岡山から出て行くのでは。

それは仕方ない。経済界の人にも話していますが、魅力ある受け皿を作ってほしい。多くの学生は、街がおもろないと言う。そこが神戸、広島との違いなんですね。それでも4割近くが残るようになった。地元出身は3割ですから、大学が地域に貢献した結果です。育てた学生をここに縛り付ける必要はなく、世界で活躍するのが一番いい姿じゃないかと思いますが。

――今の学生をどう見ていますか。

のびのびしてますよ。屈託がなくて、そのくせ批判精神があって、言いたいことは言う。ただ、青雲の志というか、大きいことは考えなくなっている。現実がよくわかっていて、賢いのでしょうが、社会が夢を持たせない構造になったからでしょうか。すべて東京、ではなく、面白いことがあちこちに分散しているのを示さないといけませんね。

ちば・きょうぞう

京都市出身。京都大農学部林学科卒。高知大農学部助手、岡山大農学部助教授などを経て教授。同学部長、理事・副学長などを歴任し、2005年から現職。専門は生態系管理学。68歳。