『読売新聞』2008年6月18日付

大学が学術雑誌買えない
値上がり、予算減で 研究に影響懸念


学術雑誌の価格が高騰して、大学が購入を取りやめる事態も起きている。

「大学や独立行政法人が悲鳴を上げている。重要な情報源が維持できない」。4月10日の総合科学技術会議で、金沢一郎・日本学術会議会長は福田首相に窮状を訴えた。

山口大の図書館は昨年末、雑誌を扱う出版社シュプリンガーとの購読契約を打ち切った。千数百万円の経費削減となったが、約1300の電子雑誌が読めなくなり、研究者の個人購読に切り替えた。理系、文系を問わず、過去の成果や最新の動向を知ることは研究の第一歩。学術雑誌が読めなくなれば、その基盤が損なわれかねない。丸本卓哉学長は「買いたくても買えない。研究の根幹にかかわる」と危機感を募らせる。

他大学も、共同で複数の雑誌を割安な価格で一括購読したり、独自に蓄積した論文をホームページで無料公開したりするなどの対策を取る。しかし、研究費や論文の数が増える一方で、大学の図書館の予算は削減傾向にある。雑誌の価格は毎年5〜8%のペースで値上がりを続けており、努力だけでは限界がある。

値上がりは、紙媒体と電子媒体の両方を発行することなどで出版社の製作コストが上昇しているのが原因。研究の分野が拡大して、雑誌の数も増え、現在では2000以上の出版社が2万以上の雑誌を発行する。雑誌の購入費用は膨らみ、2004年度に日本の大学の外国雑誌購入の費用は334億円に上った。

国立大学図書館協会は4月、「厳しい財政状況下、努力も限界。学術雑誌の利用環境が崩壊する」という声明を出した。国立大学協会も2月、「一大学の問題ではない。国全体で検討してほしい」と文部科学省に要望した。

一方、出版社側は「我々が勝手に雑誌を創刊しているのではなく、研究者が新分野を開拓し、論文を量産している」(大手出版社幹部)と強気だ。皮肉にも、研究者は論文を投稿して雑誌の権威と価格を支えている側面もある。

5月に東京大で、大学と出版社の双方が出席して開かれた学術雑誌のシンポジウムでは、国の予算増を求める声が相次いだが、解決は容易ではなさそうだ。(山田哲朗)