『毎日新聞』2008年6月13日付

ひと:松本紘さん 次期京大学長に決まった


独立法人化で財政的に厳しい環境に置かれる国立大。京都大でも創立以来の「自由の学風」の足元が揺らぎ始めているようにも見える。そんな懸念を意識してか、先月の就任決定後の記者会見では冒頭「自由の学風の伝統をきちんと堅持していきたい」と明言した。

05年10月から、研究や財務担当の副学長兼理事として大学運営に奔走した。山中伸弥教授が世界で初めて人工多能性幹細胞(iPS細胞)の作成に成功すると、研究センター、産業応用懇話会、特許管理会社の設立など次々と支援策をリード。持ち前の「スピード感」を発揮した。そのためか、周囲からはビジネスや官僚の経験があると思われることが多いという。

「顔つきは悪いが、心は優しいと思っています」と笑う。研究でも教育でも、重んじるのは人間関係。「学問は真実を巡る人間関係である」が信念だ。任期は6年間と長丁場だが「人間が好きなので、マネジメントも楽しんでできるんじゃないか」と意欲を語る。

47歳で始めたゴルフでは、練習に熱中するあまり自宅の畳をえぐり、シャンデリアを壊した。人一倍負けず嫌い。それでいて対応能力は融通無碍(むげ)。「私は(状況に応じて変色する)カメレオン」。5年間で100人規模の若手研究者ポストを作る構想を練るなど、早くも独自色を見せ始めている。【朝日弘行】

【略歴】松本紘(まつもと・ひろし)さん 京大工学部卒。宇宙プラズマ物理学専攻。京大生存圏研究所長などを歴任。妻と2人暮らし。65歳。