『長崎新聞』2008年5月22日付

11社中、黒字は1社 県大学発ベンチャー事業開始5年


県が、世界に通用するベンチャー企業育成を目指して始めた「県大学等発ベンチャー創出事業」は、事業開始から五年が経過した。新設の大学発ベンチャー企業などを対象に一億円や一千万円の大型助成をする制度が高い注目を集めたが、支援企業に選ばれた十一社のうち、成果指標に掲げる黒字化を達成したのは一社だけ。株式公開企業の誕生も目指したが、まだ公開した企業はなく、ベンチャー企業育成の試行錯誤が続いている。

「大学等発ベンチャー創出事業」は、投資を含む一億円の資金支援のほか、専属の創業支援人材を配置するなどして、大学などの高度な研究成果を新しい産業創出に結び付けるのが狙い。「産業振興の起爆剤」(県産業振興財団)という触れ込みで二〇〇三年度にスタート。一億円枠の支援先に三社、一千万円枠には八社を選定。県企業振興・立地推進本部によると、〇七年度までに総事業費は約五億円に上っている。

事業の目玉で株式公開を目指す一億円枠には、半導体分野やライフサイエンス分野で長崎総合科学大や県立長崎シーボルト大(現県立大)、長崎大のベンチャー企業が選ばれた。採択当時、ベンチャー企業経営者からは「早ければ五年を目標に上場したい」との強い意欲も聞かれたが、一億円枠のベンチャー企業で株式を公開した企業はなく、黒字化を達成した企業も出ていないのが現状。中には開発商品の売上高が当初目標に大きく届かない社もある。黒字化は一千万円枠の一社が達成しただけ。

ベンチャー企業育成は「県元気ベンチャー創出事業」に名称を変え、事業を継続してきた。しかし、〇七年度の県政策評価委員会は同事業について「最終的な目標の株式公開は、社会・経済状況の変化を見ながら妥当性を考える必要がある」と成果指標の設定に疑問を投げかけた。ベンチャーをもてはやした時代の変化が、微妙な影を落とす。

県企業振興・立地推進本部は「資金調達、人材不足など課題はさまざま。ベンチャー企業は産業構造の多様化に貢献しているので、全社成功を目指し、支援を続けたい」と事業の意義を強調している。