『信濃毎日新聞』社説 2008年5月20日付

宇宙基本法案 政策転換に心配が募る


宇宙開発と防衛をめぐる日本の大本の政策が転換されようとしている。今の国会で成立見通しの「宇宙基本法案」によってである。

法案に対し、国民の関心は薄く、国会での論議も深まっていない。このままでは、将来に禍根を残さないか心配だ。

自民、公明、民主3党の共同で提出された。自衛隊独自の偵察衛星の開発、運用など宇宙の防衛利用を容認する内容である。

1969年に国会は、日本の宇宙開発は「平和目的に限る」とする決議を採択している。平和目的とは「非軍事」だと、解釈されてきた。

これを踏まえ、防衛目的の衛星打ち上げは禁止された。打ち上げられた情報収集衛星については、地上の物体を見極める能力が民間衛星並みとされている。

与党側は宇宙開発の範囲を「非軍事」から「非侵略」に拡大することが必要として昨年、法案を議員立法で提出した。参院選での自民党敗北から、法案の審議が進まなかった。

今回の法案では「憲法の平和主義の理念にのっとる」を加え、民主党が共同提案に同意した。

北朝鮮の核・ミサイルの脅威が高まった。産業界は防衛分野の需要拡大を目指す。そんな事情が追い風になっている。

問題点を指摘しておきたい。

第1は、基本法によって開かれる軍事面での利用が、とめどなく広がらないかという心配だ。

自衛隊が直接衛星を持ち、能力を高められる。将来のミサイル防衛に必要な早期警戒衛星を独自に持つことも可能になる。防衛には機密が付き物だ。「憲法の平和主義の理念」を掲げていても、国民に十分知らされないことが増えていきかねない。

2番目は、近隣諸国との緊張をかえって高める恐れだ。中国は昨年、自国の人工衛星破壊の実験に成功した。敵対国の軍事衛星をも攻撃する能力があることを示している。日本は軍事面の衛星開発競争で緊張を高めるよりも、平和利用の先頭に立ちたい。

3つ目には、平和利用の科学衛星との関係だ。日本は小惑星探査機や月周回衛星で成果を挙げてきた。防衛に傾斜を強めて科学探査をおろそかにすべきではない。

衆院では委員会審議はたった2時間で可決、本院も通過した。参院では論議を尽くし、国民の懸念を解消すべきだ。軍事面での利用拡大の独り歩きにどう歯止めをかけるのか、提案した3党はしっかり説明する責任がある。