『毎日新聞』社説 2008年5月15日付

宇宙基本法案 軍事利用に懸念は消えない


宇宙空間の軍事利用に道を開く「宇宙基本法案」が自民、公明、民主3党の賛成で衆院を通過した。3党による議員立法で、今国会で成立する見通しだ。

成立すれば、政府が認めていなかった自衛隊の衛星保有やミサイル防衛(MD)のための早期警戒衛星、高い解像度を持つ偵察衛星の開発・打ち上げが可能となる。しかし、法案が目指す方向性に懸念を表明せざるを得ない。

宇宙利用に関しては、日本も67年に批准した国連の宇宙条約がある。宇宙への大量破壊兵器(WMD)配備を禁止したが、通常兵器配備は可能とされている。

日本は69年に、国会で宇宙利用を「平和の目的に限り」とする決議を全会一致で採択し、政府は「平和目的」とは「非軍事」であると説明してきた。法案はこれを転換し、「非軍事」のハードルを「非侵略」まで引き下げ、防衛利用を認めるものである。

自民党の国防族議員は05年、宇宙分野の企業や防衛庁幹部らと「日本の安全保障に関する宇宙利用を考える会」を発足させ、国会決議見直しを検討してきた。今回、法案の第1条に「憲法の平和主義の理念を踏まえ」と加えたことで、民主党が共同提案に同意した。

しかし、法案が将来の宇宙への兵器配備に向けた「入り口」になるのではないか、との懸念が残る。

「考える会」が06年8月に自民党に提言した「わが国の防衛宇宙ビジョン」では、防衛衛星には、情報・通信のための衛星のほかに、システム障害を引き起こす攻撃からの防御を目的とした「拒否衛星」も含まれるとした。この衛星は通常兵器とされる。

また、「防衛宇宙ビジョン」は、国会決議見直しの最終段階として、攻撃衛星のうちの通常兵器配備を指摘している。具体的には「衛星誘導の無人偵察機」を想定しているという。

宇宙への兵器配備は通常兵器であっても、憲法に基づく軍事戦略である専守防衛に反する。法案は確かに「防衛宇宙ビジョン」そのものではないし、「憲法の平和主義」の文言が盛り込まれた。しかし、法案が、これを推進した「考える会」の目指す宇宙利用に向けた第一歩になるのではないか、との疑念はぬぐえない。

一方、宇宙開発の透明性に対する懸念もある。現在の情報収集衛星についても国民に開示されている情報は少ない。「防衛宇宙ビジョン」では「秘密保全制度」の確立が強調され、法案では「情報の適切な管理」がうたわれた。軍事衛星打ち上げには巨費が投じられることになるが、軍事が宇宙利用の柱になることで透明性は一層低下する可能性が高い。

衆院での委員会審議はわずか2時間だった。知らぬ間に法案が通過したというのが国民の実感である。参院には十分な審議で懸念を解消するよう望みたい。