『琉球新報』社説 2008年5月9日付

宇宙基本法 「非軍事」の精神を忘れるな


竹取物語の時代から、人は天空に神秘を感じ、あこがれを寄せてきた。宇宙は、誰にとっても夢とロマンあふれる空間に違いない。

自衛隊による独自の偵察衛星の開発、運用など宇宙の防衛利用を容認する宇宙基本法案を、議員立法で衆院内閣委員会に提案することについて自民、公明両党と民主党が大筋合意した。

1969年に宇宙開発事業団法を成立させる際、宇宙開発や利用について、衆院では「平和目的に限り、学術の進歩、国民の生活向上および社会の福祉を図り、併せて産業技術の発展に寄与するとともに、進んで国際協力に資するため」、参院では「平和利用の目的に限りかつ自主・民主・公開・国際協力の原則のもとにこれを行う」とそれぞれ決議した「非軍事」原則がある。

わが国憲法の平和主義に沿い、「非侵略」よりも厳格なものとして規定している。

与党と民主が合意した新法案は、「安全保障に資するように行わなければならない」と明記した。平和利用原則の決議では、宇宙開発で得た技術をミサイル防衛には応用できない。今回の宇宙基本法は、この点を見直し「専守防衛」の範囲ならミサイル防衛への技術転用を可能にするものといえる。非侵略の範囲で宇宙の防衛利用を認めるものだ。

69年の非軍事原則は「平和的目的のための宇宙空間の探査および利用の進歩が全人類の共同の利益であることを認識し、宇宙空間の探査および利用がすべての人民のために」とする、67年の「宇宙条約」の基本精神を諸外国に先駆けて確認した目的、原則だったはずだ。

一方で、宇宙産業の育成を訴える声もある。文部科学省の下にある宇宙開発委員会や宇宙航空研究開発機構(JAXA)など現在の組織体系では宇宙についての研究開発に限られ「宇宙の利用」という側面での広がりは持てない。

宇宙条約の「平和的利用」の解釈には統一見解がないとされる。宇宙法の専門家は、防衛目的なら軍事利用できると判断する国が大勢だとし、非侵略の範囲で認めるのは国際標準とする。

だからといって、「民生」と「軍事」の境目をあいまいにしたまま、法制化に向け、無原則に突き進むのはどうだろうか。宇宙条約の理念に沿い、宇宙開発の平和利用の在り方をめぐる議論こそ深める必要がある。

宇宙開発戦略をめぐり、近隣諸国や国際社会に無用な誤解と不安を与えぬよう慎重でなくてはなるまい。日本は何を目指し、何を目的にしているのかという透明性の努力も欠かせない。宇宙基本法は「非軍事原則」の精神を貫きたい。