『朝日新聞』2008年5月2日付

国立大が「保護者重視」 校舎案内、就活前に「面談」も


学生だけでなく保護者の皆さんも大切にします――。三重大(津市)は、入学式の日に保護者にキャンパスを案内したり、就職活動を控えた時期に「面談」したりする取り組みを、学部単位で広げている。岐阜大(岐阜市)でも指導教官と保護者が懇談する場を設けている。生き残りをかけて国立大学が競い合う時代。面倒見の良さを売りに「親重視」の流れが生まれている。

三重大人文学部は入学式があった4月8日、初めて保護者に研究室や学内の桜、伊勢湾が見渡せる屋上などを案内した。10人ほどの保護者に説明役の教員が1人付いた。「おおむね好評をいただいたと思います」と、同学部の綾野誠紀教授は話す。

入学式に同伴する保護者は以前から少なくない。同学部では今春、入学者291人に対して、保護者は約100人だった。新入生のガイダンスの間は、保護者に学部長があいさつし、学科別に教育内容の説明もした。

綾野教授は3月まで同学部の広報・地域連携委員長を務め、年間数十校の高校を回った。「高校でも保護者の姿を見かける。人文学部を卒業すればどんな職業に就けるのか、関心の中心は進路。『どの大学に入れるか』と求められる高校と、同様の情報が必要とされていると感じる」

同大の全5学部で、入学式に保護者を案内したのは生物資源学部が最初だ。5年前から、入学式に「保護者歓迎会」を開いている。9月には、3年生の保護者を対象にした指導教官との「面談」もある。昨年は167人が参加した。

同学部広報副委員長の苅田修一准教授は「主な話題はやはり進路。どんな道があるのか、大学院へ進むには、などの質問が多い」。

各学部内には「大学生は大人ではないか」と、保護者への対応強化に異論もあるという。綾野教授も「過保護といえばそうかもしれない」。それでも、「『教育熱心』な保護者が増えたことは確かです」。

大学が保護者に積極的に情報提供する姿勢は、全国の大学に広がっている。独立行政法人「労働政策研究・研修機構」が05年に全国の4年制大学を対象にした実態調査(回答510大学)では、保護者を対象にした就職に関する相談会を開いている大学は43.7%。ただ、国立大学に限れば17.1%と低かった。

岐阜大応用生物科学部は4年前から、11月に学部3年生と大学院1年生の保護者を対象に就職説明会を開いている。それまでは、5月に学部4年生の保護者が対象だったが、「就職戦線」の早期化を受けて早めた。研究室の指導教官との懇談もある。「就職に関して、保護者にも知っていただき、支えてもらうことが目的」と担当者は話す。

一方、名古屋大は「面談のような活動は聞いたことがない」(広報室)。同じ国立大でも温度差はまだある。

保護者重視の背景にあるのは、04年の国立大学の法人化だ。学生獲得のため、各大学での「企業努力」が必須となった。三重大の担当者は「『面倒見のいい大学』を売りにして、保護者の評価も得る必要がある」と話している。(宮沢崇志)