『しんぶん赤旗』2008年4月21日付

ゆうPress
きらり理系女子
研究と家庭 両立ムリ? 国が支援 追い風吹く


“男子は理系、女子は文系”“研究と家庭生活の両立はムリ”―そんな風潮もまだまだ強いなかで、研究者を夢見て頑張る理系女子たち。国が支援に乗り出すなど、追い風も吹き始めました。(学生は仮名)坂井 希

「高校ではクラスで紅一点。大学も、受かってびっくり、 100人中女子は4人でした」。都内の大学工学部(4年生)の古屋茜さんが語ります。

理・数・工学系に学ぶ女子学生の多くが、こうした体験に直面します。「男子とも話せるので孤独感はないけど、周囲の目はプレッシャー。『女で理系に来るからには、よほど覚悟があるんだろう』みたいな(笑い)」と古屋さん。

将来不安

研究者を目指す理系女子にとって、一番の不安は将来のこと。身近に女性の先行モデルが少ないからです。古屋さんの研究室の教授も50代男性。“24時間研究漬け”の姿を見るにつけ、「女性が研究者になったら、結婚や出産はできないんだろうな」と思うと言います。

別の大学で薬学を専攻する大橋春香さん(3年生)も、「女性は研究者として脂が乗ってくるころと出産・育児の時期が重なる」と不安を口にします。「授業で研究者の心得について話してくれた講師は全員が男性。参考にならなかった」

日本の研究者に占める女性の比率は12・4%(2007年)。国際的に見て最低レベルです。

少ない理由を女性研究者に聞くと、トップは「出産、育児、介護など」。「評価、昇進、処遇において女性が不利」が続きます。

粘り強く

個人の努力や家族の支えを頼みに、いばらの道を歩んできた女性研究者たち。1975年、大阪で第1回婦人研究者問題全国シンポジウム(日本科学者会議主催)が開かれたころから、粘り強い運動が始まります。

2002年には、12の理工系学協会が男女共同参画学協会連絡会を結成。賛同が広がり、参加学協会は67にまで増えました。

政府も2000年代に入り、本格的な支援を始めました。02年、文部科学省が「女性の多様なキャリアを支援するための懇談会」を設置。 翌年の報告で、大学教員の新規採用は「30%程度は女性を」と提言しました。06年の科学技術基本計画には「女性研究者の活躍促進」が盛り込まれ、各種の女性研究者支援制度(表)がスタートしました。

文科省の担当者は「優秀な女性が研究を続けられなければ、日本の科学技術の発展もない。これは政府あげての掛け声だ」と言います。男女共同参画学協会連絡会の中村正人委員長(宇宙航空研究開発機構教授) は、「長い運動の積み重ねがあって少しずつ変わってきた。われわれの取り組みは、悪すぎたバランスを普通に戻すという当たり前のこと」と話します。

低すぎる若手研究者の地位

女性研究者支援の広がりの一方、男性を含む若手研究者の状態悪化が深刻です。大学院博士課程を出ても安定した職に就けず、ポスドク(短期契約の非常勤研究員)などで当座をしのぐ人が多数に上ります。

ある女性ポスドク(32)は「収入は低く、社会保険に入れない場合もある。身分が不安定で自分の研究に専念できない。男女共通です」と話します。同時に女性特有の悩みも。「将来が見通せない状況では、結婚や出産に踏み切れない。付き合っている男性もいるし子どもも欲しいけど、年齢的にタイムリミットはそう遠くない」

日本の高等教育予算は貧しく、大学への交付金は毎年削減されています。国立大が法人化された03年以後、削られた人件費は479億円(06年度)。旧国立大時代の助手の初任給1万人分です。

若手研究者の不安解消には、高等教育政策の転換が不可欠です。

男性研究者を含めた「働き方の見直し」も課題です。お茶の水女子大は「9時―5時」体制を全学的に実施し、研究者が定時に帰れて業績もあげられる環境の達成を目指しています。

前出の古屋さんは言います。「女性は困難が多い分、研究の社会的意味などを真剣に考えている面もあると思う。女性がもっと増えて研究の分野で輝けるように、政府は支援を強めてほしい」

大学が子育てサポート 東京農工大

東京農工大(本部=東京都府中市)は、06年度の文部科学省科学技術振興調整費「女性研究者支援モデル育成」事業に採択、女性キャリア支援・開発センターを設立しました。5人の専任スタッフが女子学生や女性研究者を支援しています。

その一つが「学内研究サポートシステム」。出産・育児・介護中の女性研究者に、研究支援員を派遣するものです。「定期的に実験の下準備やデータ処理などを手伝います。一人でやるより早く終わり、保育園のお迎えに行けたりする。“大学が子育てをバックアップしてくれる”という心理面での効果も大きいようです」(同センターのコーディネーター、秋田カオリ特任准教授)

センター長の宮浦千里教授は「女性研究者が継続して研究活動を推進できるように支援体制を整備しています。国の予算もつき、組織をあげて動けるようになったことは大きい。本学の優秀な卒業生に母校に戻っていただき、再び勉強して再起してもらえるような、本学の特色を生かした取り組みも進めています」と話します。

参考資料等全文は http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-04-21/2008042105_01_0.html