『東京新聞』2008年4月22日付

原子力のリーダー養成へ 東京大・原子力機構が包括連携


東京大と日本原子力研究開発機構は、原子力分野での人材育成と研究開発強化を柱とする包括的な連携協力を進めることで合意し、協定を結んだ。人材交流や研究施設・設備の共同利用などを通じて原子力界のトップリーダーを養成する。

原子力はエネルギー安定供給や地球温暖化対策を背景に見直されている。また、国際的にも原子力産業界の再編や寡占化が進み、ウラン資源確保に向けた資源外交も活発化している。

このため、原子力分野での高度な技術者や研究者の養成が緊急課題になっているが、国内では十数年前から東大を含めて大学から「原子力」の名前がついた学科や専攻が消滅。教育や人材育成が衰退し、“原子力ルネサンス”に十分に対応できないのが現状だ。

東大は三年前に原子力国際専攻と原子力専攻専門職大学院を設置。昨年は「世界を先導する原子力教育研究イニシアティブ」が、優れた拠点づくりを目指す国のグローバルCOEに採択されるなど原子力人材育成に再び力を入れ始めた。

原子力機構とはこれまでも相互協力関係があり、茨城県東海村にある専門職大学院の講義の六割、実習の九割は原子力機構が受け持っている。ただ、「部局単位での連携で、全体としての共同研究ではなく個人レベルや専攻レベルにとどまっていた」(平尾公彦・東大副学長)。

現在、原子力は原子力発電だけでなく加速器や核融合、医療利用まで広がっている。原子力エネルギーから放射線利用、原子力社会学まで総合的に教育研究している東大と、国内最大の原子力研究者や技術者を擁する原子力機構が包括的に協力することで人材の育成や交流、研究協力、研究施設・設備の相互利用を充実、強化させる。

東大での調印式で小宮山宏・東大学長は「エネルギー資源確保と脱炭素・脱化石の実現は人類の重要な課題。非化石系資源の総動員は待ったなしの状況で、原子力の役割は欠かせない。原子力の人材育成に両組織が協力する意思を明確にしたことが重要」と話した。岡崎俊雄・原子力機構理事長も「協力関係をより広く、強力にすることで世界が必要とするリーダーを育て、優れた研究開発成果を日本から発信できる」と期待をかけた。