『沖縄タイムス』社説 2008年4月21日付

[教育基本計画]
後退した印象にみえる


これで将来の人材育成、学力向上が本当に計れると思っているのだろうか。文部科学相の諮問機関である中央教育審議会が答申した「教育振興基本計画」のことだ。

基本計画は二〇〇六年に改正された改正教育基本法で政府に策定が義務づけられた。

今後十年を見通した教育のグランドデザインで、その前半の五年間でやるべき計画を記したものである。

中教審が議論の中心に据えてきたのは、学力の低下に対する学校現場での対応であったはずだ。だが、答申はそうなっていない。

今年一月に中教審が告示した学習指導要領改定で打ち出した授業時間数の増加に対し、私たちは、その取り組みを可能にするにはまず教員数を増やすこと、同時に教員の技量を向上させる学校運営の必要を説いた。

学校現場の環境整備を後回しにして授業時間数だけを増やしても現場が今以上に疲弊するだけで、学力向上には結びつかないと考えるからだ。

今回の答申は、教育界が最大の優先課題としていた教育予算額が提言として盛り込まれていない。

中教審は学習指導要領を改定する際に、教員数を増やすことはその前提になるとしてきたはずなのに、必要とされる教職員の定数改善についての具体的見通しも明記しなかった。

これでは施策として不十分であり、学校現場には後退したとの印象にしか映らないのではないか。

文科省が改正教育基本法に行政目標である基本計画の策定を盛り込んだのは、教育予算を増やすことを確実にしようとの思惑があったからだという。

十八日の中教審総会では安西祐一郎慶応大塾長らが「教育立国を実現するには、教育投資の充実が最低の条件だ」と要望している。

だが、文科省と財務省との事前折衝で「教員定数の改善」に難色を示されたとみられている。

背後に学校現場があり子どもたちがいるのに、答申は現場の要望から大きく外れたものになってはいまいか。同時に、これまで積み上げてきた中教審の議論はどこに行ったのかという思いも禁じ得ない。

基本計画は五月に閣議決定される。財務省などとの調整はそのためだが、それでも抜本的な教育論議はそっちのけで、財源の問題から具体策を盛り込めなかったとしたら残念というしかない。

このままでは何のための審議会なのか、その存在自体が問われていることを忘れてはなるまい。

文科省は「教育投資の充実」や「教職員定数の改善」という文言は盛り込まれたと自賛している。

しかし、学校現場が疑問に思っているのは「歳出・歳入一体改革との整合性を取る」という言葉と横並びにされたことである。

学力低下や学力格差をどう是正していくか。そのためには子どもたちの目線に立った改革が必要なのに、なぜ財政問題でぼかしてしまうのか。人員を確保することが緊急の課題であれば、財政措置は不可欠である。文科省は、教育現場が抱いている危機感の解消に全力を傾けてもらいたい。