『読売新聞』社説 2008年4月6日付

教職大学院 進学の利点を明確にせよ


教職大学院の人気が、いま一つ乏しい。進学の利点を、もっと明確にすることが重要だ。

教職大学院が今月からスタートし、教員免許を持つ大学新卒者や現職教員らが入学した。指導力のある新人教員と、学校運営の核になれる中堅教員の養成が目的だ。

2006年の中央教育審議会の答申に、設置が盛り込まれた。来年度から始まる教員免許更新制と同様、教員の資質向上策だ。

「理論と実践の融合」を掲げ、2年間で取得する45単位以上のうち、10単位以上を実習に充てる。スタッフも、専任教員の4割以上が校長経験者ら実務家である。

しかし、質の高い教員を輩出していくためには、課題も多い。

例えば、発足早々、国立15校、私立4校のうち、国立5校、私立2校が定員を満たしていない。

特に国立は深刻だ。3校で志願者が定員を下回り、うち1校は入学者が定員の半分以下だった。志願者の全員合格も3校ある。

文部科学省の設置認可が昨年12月と、準備期間が短かったこともあろう。だが、低調な志願状況の背景には、進学の意義がはっきりしないことがある。

団塊世代の大量退職などに伴い、教員採用試験の倍率は下がっている。ピークだった00年度の平均13・3倍から、07年度には7・3倍になった。東京都ではここ数年5倍前後で、小学校教員に限れば2〜3倍だ。

教職への門が広がる中、新卒者が高い学費を出して進学する意味はあるのか。現職教員の場合、修了するメリットは何か。教職課程を持つ大学・大学院との違いは何なのか――。こうした点が不透明なままだ。

政府の「規制改革・民間開放推進会議」は05年、教職大学院修了者というだけで優遇する制度は不適当とした。優秀な社会人登用の妨げになるからだという。だが、教職大学院修了者の採用や処遇には、一工夫あってもいい。

実際に教員の採用・処遇を決めるのは、各教育委員会である。

都教委では、協定を結んだ教職大学院の修了者について採用試験での特例選考を認めた。初任者研修の一部免除も検討中だ。他の教委でも、受験科目を減らすなど様々な角度から考えてほしい。

もちろん、各教職大学院が、教育内容や修了者の処遇について、教委と密接な連携を図っていくことも欠かせない。

教職大学院の成否は、先行実施の19校の実績にかかっている。