『朝日新聞』2008年3月31日付

上位狙いか疑問視か 海外発「世界大学ランキング」


国内の有力大学の間で、海外発「世界大学ランキング」への関心が高まっている。「順位上昇作戦」を展開したり、目標順位を掲げたりする大学もある。一方、「非英語圏は不利」「文系軽視」など、ランキングに対する疑問も根強い。「たかがランキング、されどランキング」――大学関係者がこう語るランキングとの付き合い方をみた。

◆東大「順位は恣意的」

東京大が21日、米カリフォルニア大バークリー校、米エール大、英ケンブリッジ大という名門大学と教育力を比較する研究会を開いた。

小宮山宏総長は「ランキングの多くは恣意的(しいてき)で、順位に一喜一憂するのは本末転倒」とあいさつ。浜田純一副学長も「ランキングは教育など大学の総合力を正確に反映しているわけではない。むしろ、似ている大学と比べることで長所や短所をはっきりさせた方が有益だ」と話す。

「世界の知の頂点を目指す」(小宮山総長)東大だが、英紙タイムズの07年のランキング(以下同じ)では17位。専門家評価は百点満点だが、国際性が50点以下なのが弱点だ。最近力を入れている国際化は「順位上昇作戦」にも見えるが、浜田副学長は「総合力ではすでに世界の10位以内だと思っている。ランキングの上昇自体が目的の努力をするつもりはない」。

◆東北大「30以内目標」

一方、ランキングに対応しているように見える大学もある。

一橋大は200位にも入らず、「順位の低さに衝撃を受けた」(加藤哲郎・研究担当役員補佐)。そこで、同じ社会科学の総合大学でありながら06年には東大よりも上位(17位)に入った英ロンドン大経済政治学院(LSE)を現地調査。論文の英訳支援も始めた。加藤補佐は「人文科学と社会科学の部門別ランキングでまず100位以内を目指す」と意気込む。

大阪大(46位)は07年に初めてトップ50入りしたが、「論文の引用回数からみると30位以内に入っていてもおかしくない。10〜20位台にはいきたい」(高杉英一副学長)。タイムズ側に対し、評価にあたる専門家が欧米に偏っているのではないかとして改善を求めるなど積極的だ。

慶応大(161位)は安西祐一郎塾長が05年、日本の大学のトップとしては初めてタイムズの編集部を訪れて算出の基準などを尋ね、そのころから塾長の海外出張を約2.5倍に増やした。坂本達哉常任理事は「慶応の国際的な存在感が高まり、結果としてランキングにもプラスに働いているかもしれない。50位に近づきたい」。

東北大(102位)は昨春、井上明久総長が「井上プラン」で「10年後のトップ30入り」を宣言。北村幸久副学長は「そのためにも世界中から優れた研究者や学生を獲得したい」。新年度からは優れた教授に月給を上乗せする「抜群教授」(ディスティングイッシュトプロフェッサー)制度を始めて、優秀な「頭脳」獲得に本腰を入れる。

東京工業大(90位)は「レベルに比べて国際的な知名度が低い」(大倉一郎副学長)弱点への対策として、07年3月から世界的な科学誌「ネイチャー」に大学紹介などの広告を出している。大倉副学長は「電子メールで購読者1万人にも配信されるので、評価にあたる専門家が見る可能性もある」と期待する。

◆「ミカンとリンゴ比べるよう」

これに対し、ランキングに懐疑的な大学もある。

京都大(25位)の木谷雅人副学長は「多種多様な大学を順位付けできるのか疑問だ。信用が置けるものとは思っていない」。早稲田大(180位)の堀口健治副総長も「ランキングは英語の論文や理系が中心で、人文・社会科学系の力を十分反映していない。順位の上がり下がりに一喜一憂するのは間違っている」と話す。

一方、国立大学協会副会長でもある九州大(136位)の梶山千里総長は「順位を上げることは重要」としながらも、「カンフル剤のような一時的なものではなく、実質の向上がともなうような努力をすべきだ」。

大学は、ランキングとどう付き合えばいいのか。

東大の小林雅之教授(高等教育論)は「大学の力には数量化できないものも多い。リンゴとミカンを比べるようなものなので、距離を置いた方がいい」と言う。一方、神戸親和女子大の間渕泰尚専任講師(同)は「歌のヒットチャートと似ていて、上位でなくても、いい曲(大学)はあるが、上位にあるのはそれなりにいい曲(大学)だ。自校の改善のために賢く使えばいい」と話している。

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主な大学ランキング

最も有名なのは、英国の日刊紙タイムズの別冊高等教育版などが04年から発表しているもの。(1)研究力(専門家による評価が40%、教員1人あたりの論文引用回数が20%)(2)卒業生の被雇用力(企業の採用担当者による評価、10%)(3)教育力(学生1人あたりの教員数、20%)(4)国際性(外国人教員比率と留学生比率、各5%)から算出している。

上海交通大学が03年から発表しているものは、ノーベル、フィールズ両賞の受賞者数や科学誌「ネイチャー」「サイエンス」の掲載論文数などを基準にしていて、「研究力ランキング」の性格が強い。

米誌ニューズウィークが06年に発表したものは、タイムズと上海交通大学のランキングなどをもとにしている。