『読売新聞』2008年3月27日付

「成長実感」目指した7年


県立大学化へ向けて動き出した高知工科大(香美市土佐山田町)の礎を築いた岡村甫(はじめ)学長(69)が、3月末で退任する。東大在学中、野球部に所属し、東京六大学で通算17勝をあげた経験を教育に生かそうと、2001年の学長就任後、「成長が実感できる」大学作りを目指した。岡村学長に、7年間を振り返ってもらった。

(聞き手 島田喜行)

「研究機関」だけでなく、大学の「教育機関」としての役割に力を入れていましたが、どんな思いからですか。

東大で教授をしていた時から、所属する研究室によって、短期間で伸びる学生と伸びない学生がいることに、大学の教育システムの未熟さを痛感していました。野球でも「成長している」と実感するとすごく楽しくなってきます。私は球も遅く、体も小さかった。中学では補欠の内野手でしたが、当時の監督が才能を見いだしてくれ、投手で出場した3年の夏の大会では1点も取られずに優勝しました。監督、コーチが選手の特性を見いだすのは責務です。どの大学も、教員が学生の特徴を伸ばしてあげるという観点が欠けていたと思います。

学長就任後、最初に取り組んだのは何ですか。

学生の良さを見つけて引き出せる、教員の養成システム作りを最優先しました。それが形になったのが、「教員評価システム」です。学生に教員評価をしてもらい、点数を給料に反映させる。教員に客観的な指標を与えることができ、4点満点で1点台の教員が数年で3点近くになるなど、目に見えて効果が表れてきました。

学生を成長させるために、ほかにどのような改革をしましたか。

学問に一番必要な、自発的に学ぶ姿勢を身につけさせるために、12〜15人の少人数で、企業などで活躍した教員がそれぞれのキャリアを生かした様々な演習や実験を指導する「スタディスキルズ」を導入しました。学生は入学直後に班分けされ、そこで「学び方」を学びます。学び方がわかれば、「自分で自分の成長を測る尺度を持つ」ことにつながります。成長するためには、優秀な人材に囲まれることも必要です。東大時代の知り合いなどに声をかけ、全国から優秀な研究者を集め、学生の成長を促してくれる環境作りに力を入れました。

任期1年を残して退任する理由と今後の予定は。

「自分が必要と思ったことはすべてやりきった」。これが任期満了前に退任する理由です。就任1年目の卒業式で、涙を流して「工科大に来て良かった」と話してくれた学生を見て、本当にうれしかったし、やってきたことは間違いなかったと思いました。今後も、教授として高知工科大に残ります。工科大が全国の知の中心になり、世界から人や注目を集める存在感のある大学になるように頑張っていきます。