『産経新聞』2008年3月21日付

生き残り学費戦争本格化 慶大全廃へ東大は授業料無料


東大や東工大の授業料免除に続き、慶応大が21日、将来的な入学金全廃を視野に学費見直し策を打ち出した。少子化、国際化の中、生き残りのために、より優秀な学生を集めようとする大学の学費戦争。勝ち組の有力大学が資金力をバックに新制度を仕掛けるのに対し、地方の大学などからはうらやむ声や格差拡大を懸念する声も聞こえてくる。

慶大の入学金引き下げにライバルの早稲田大広報室は「学費制度見直しをすぐに行う予定はない。だが、奨学金を可能な限り充実して大学院生を中心として優秀な人材に来てもらうようにしたい」と対抗心を燃やす。

明治大は「本校ではそうした動きはまだ聞いていない」と驚き、財力のある慶大の行動に「将来的に全廃となったら、入学金収入にかなりの部分を依存している小規模校や地方私大は苦しくなるだろう」と推察する。

専修大は優秀な学生を集めようと今春からスカラシップ(奨学金給付)入試を始めた。ネットワーク情報学部の場合、奨学金は4年間で総額662万円にのぼる。

国立大では、東大が平成20年度から家庭の年収400万円未満の学生の授業料を無料にする制度で大学関係者を驚かせた。

平成18年の東大生の「学生生活実態調査」によれば、親の年収が450万円未満の学生は13・4%いる。東大の学部授業料は年53万5800円。20年度から親の年収が400万円未満(税込み)なら一律無料となれば、「現在でも全額、半額など合わせて300〜400人の学部生が学費免除となっている。それが170人ほど増えて予算的には年間で9000万円前後増えるのではないか」(奨学厚生グループ担当者)と見込む。

法人化以降、国公立大学は財政的に苦しい運営を余儀なくされている。運営交付金も年1%ずつだが削減されており、東北地方の国立大学長は「人件費などを細かく切りつめているが、大学運営にボディーブローのように効いてきている」と嘆く。

その中で、東大は企業からの援助なども含めて財政的にも最も恵まれている。だが、経済規模の小さい地方では、寄付も産学連携も不利な状況にある。

「正直いって持てる者の強さと思った。東大がそこまでやれば地方の国公立大学はとてもかなわない。ますます地方と中央の格差が広がるのではないか」とは中部地方にある国立大。中国地方の国立大も「財政的に豊かな東大だからできた取り組み。経済的に地元しか行けないと考えていた優秀な生徒も東大に取られてしまう」と危機感を募らせる。

教育評論家の尾木直樹氏は、こうした動きに「経済的に恵まれていなくても、優秀な大学に行けるという点で評価したい」とする一方、「制度のない地方では大学へ進学できなくなったり、優秀な人材が地方から東京へ流出してしまうおそれもある。国立大の高い学費も利子のつく奨学金も世界的にみれば異常だ」として、政府が大学に対し積極的に財政支援をするよう求めている。